大動脈弁狭窄症に伴う消化管出血がカテーテル治療で改善! 〜心臓と消化管の関連が明らかに〜(基礎加齢研究分野:堀内教授)

大動脈弁狭窄症に伴う消化管出血がカテーテル治療で改善! 〜心臓と消化管の関連が明らかに 〜(基礎加齢研究分野:堀内教授)

【本研究成果のポイント】
⚫ 高齢化社会で増加している大動脈弁狭窄症では消化管出血を合併することがしばしばあり、ハイド症候群と呼ばれています。大動脈弁の狭窄箇所で血流が速くなり、止血因子(フォンウィルブランド因子)が過度に分解されることによる止血異常症と、消化管粘膜に発生する出血しやすい異常血管(消化管血管異形成)の出現が消化管出血の原因と考えられています。特に後者に関しては世界的にも研究が進んでおらず実態が不明でした。
⚫ 大動脈弁狭窄症に伴う消化管出血の実態を明らかにするため、大動脈弁のカテーテル治療が予定されている貧血のある重症大動脈弁狭窄症の患者 50 名に内視鏡検査を行い、臨床経過とともに解析しました。
⚫ (1)多数の血管異形成が消化管に存在した(2)10%で出血を認めた(3)心臓を治療すると消化管の出血が改善しました。
⚫ 循環器疾患の治療と消化管粘膜病変が密接に関連しているという驚くべき知見です。

【概要】
京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器内科学 後期専攻医 彌重匡輝、同 准教授 全 完、消化器内科学 助教 井上 健、東北大学 加齢医学研究所 基礎加齢研究分野 教授 堀内久徳、同 大学院生 道満剛之ら研究グループは、貧血のある重症大動脈弁狭窄症患者のうち 94%に見られる消化管出血性病変に対して大動脈弁のカテーテル治療を行うと、消化管出血性病変の数や大きさが改善することを明らかにしました。本件に関する論文が、医学雑誌『New England Journal of Medicine』に 2023 年 10 月 19 日付けで掲載されることとなりましたのでお知らせします。
本研究は、大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療が重症大動脈弁狭窄症患者の消化管血管異形成を消退させることを初めて明らかにしました。循環器疾患の治療と消化管粘膜病変が密接に関連している驚くべき知見でした。本研究成果をもとに、今後は大動脈弁狭窄症に伴う消化管血管異形成の形成・消退メカニズムが解明され、治療の改善に繋がることが期待されます。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 基礎加齢研究分野 教授 堀内 久徳
E-mail:hisanori.horiuchi.e8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

世界をさきがけるトリオ脳科学 個性を創造する「世代間伝達」の仕組みの探究を開始(スマート・エイジング学際重点研究センター:松平泉助教)

世界をさきがけるトリオ脳科学 個性を創造する「世代間伝達」の仕組みの探究を開始(スマート・エイジング学際重点研究センター:松平泉助教)

2023年9月28日『Frontiers in Psychiatry』誌に論文掲載

「親子で性格が似ている」「親も子もうつ病になった」など、考え方の特徴や精神的な不調が、まるで連鎖するように親子で共通して見られることがあります。また、親が幼少期に虐待などの辛い体験をした場合、その影響は次世代の脳の発達や精神状態にも現れると言われています。親の性格や経験が次世代へ引き継がれているとも言うべきこれらの現象は「世代間伝達」と呼ばれています。

世代間伝達はどのようにして起こるのか、誰にでも起こるのか、ヒトの精神的健康における世代間伝達の役割とは何なのか、明確な答えは未だ得られていません。そこで、東北大学学際科学フロンティア研究所の松平泉助教、同大学医学系研究科の山口涼大学院生(日本学術振興会特別研究員)、同大学スマート・エイジング学際重点研究センターの瀧靖之教授の研究グループは、父・母・子(=親子トリオ)を対象とした脳科学の研究プロジェクト『家族の脳科学(英語名:Transmit Radiant Individuality to Offspring [TRIO] study)』を開始しました。この研究では、世代間伝達とヒトの個性の関係性の深淵な理解を目的として、親子3名の脳画像・遺伝子・生育環境・性格・認知能力、などのデータを取得し、相互の関係性を詳細に分析します。

本研究は2021年にスタートし、地域にお住まいの皆様のご協力のもと、これまでに約200トリオのデータ取得を行いました。本研究の目的、データ取得の方法、将来展望をまとめたプロトコル論文が、2023年9月28日にFrontiers in Psychiatry誌に掲載されました。今後もサンプル数を拡大しながら研究を展開し、ヒトの精神的健康の維持に貢献する新たな知見の創出を目指します。

図:TRIO studyの概要。(左上)研究参加者募集用のプロモーション画像。(左下)世代間伝達をキーワードとして、ヒトの個性が形成される仕組みを探究することがTRIO studyの目的です。(右上)研究参加者の皆様から脳画像を中心に遺伝子や生育環境などあらゆる情報を取得させて頂いています。(右下)思春期以上の子とその父母のトリオを対象としている点が、国内外の他のコホートにはないTRIO studyの特色です。

【論文情報】
タイトル:Transmit Radiant Individuality to Offspring (TRIO) study: Investigating intergenerational transmission effects on brain development
著者: Izumi Matsudaira*†, Ryo Yamaguchi†, and Yasuyuki Taki (†共同第一著者)
*責任著者:東北大学学際科学フロンティア研究所 助教 松平泉
掲載誌:Frontiers in Psychiatry
DOI: 10.3389/fpsyt.2023.1150973
URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyt.2023.1150973/full

【お問い合わせ先】
スマート・エイジング学際重点研究センター 助教 松平 泉
E-mail:izumi.matsudaira.e4*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

妊娠期に糖質が欠乏すると胎仔マウスの生殖細胞に異常が出る 〜生殖細胞形成における糖質代謝の役割〜(附属医用細胞資源センター:松居教授)

妊娠期に糖質が欠乏すると胎仔マウスの生殖細胞に異常が出る 〜生殖細胞形成における糖質代謝の役割〜(附属医用細胞資源センター:松居教授)

【発表のポイント】
⚫ 糖質の代謝は胚発生(注1) の初期に起こる生殖細胞の形成と、その後の精子と卵子への分化に必要です。
⚫ 妊娠マウスにおける糖質の欠乏が胎仔の生殖細胞の形成と分化を阻害することを明らかにしました。
⚫ 子の生殖能力に影響する妊娠期の栄養環境改善のヒントとなり得ます。

【概要】
妊娠期の栄養状態が、生まれた子の健康に影響することが知られていますが、胎児期に起こる生殖細胞の形成にどのように影響するかは分かっていません。
東北大学加齢医学研究所附属医用細胞資源センター 松居靖久(まついやすひさ)教授、林陽平(はやしようへい)助教の研究グループは、滋賀医科大学と共同で、培養下で多能性幹細胞(注2) から生殖細胞を誘導する系を用いて糖質(グルコース)の重要性を調べました。その結果、生殖細胞の形成においては、 グルコースが特定の代謝経路を介してタンパク質の糖鎖修飾(注3) の基質として働くことが重要であることを突き止めました。
また、妊娠マウスに糖質を含まない給餌を行うと、胎仔のタンパク質の糖鎖修飾が抑制され、生殖細胞形成と分化が阻害されることを明らかにしました。これらの結果は、妊娠期の糖質欠乏が、子の生殖機能に影響を与える可能性を示唆するものです。
本研究成果は10 月16日、生命科学の専門誌 EMBO Reports 誌電子版に掲載されました。

図 本研究の概要:生殖細胞形成における糖質代謝の役割

【用語説明】

注1. 胚発生:
多細胞生物の受精卵が細胞分裂を繰り返し成体になる過程。
注2. 多能性幹細胞:
体を構成するほとんどすべての細胞に分化できる幹細胞。
注3. 糖鎖修飾:
アミノ酸残基に糖鎖を付加する、タンパク質の主要な翻訳後修飾の一つ。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 附属医用細胞資源センター
教授 松居 靖久
E-mail:yasuhisa.matsui.d3*tohoku.ac.jp
助教 林 陽平
E-mail:yohei.hayashi.e2*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

東北大学 × NTTコニュニケーションズ × 仙台市
「SENSINプロジェクト」キックオフ発表会を開催します

東北大学 × NTTコミュニケーションズ × 仙台市
「SENSINプロジェクト」キックオフ発表会を開催します

 国は、デジタル田園都市国家構想の実現に向け、デジタル実装の前提となる取り組みとして、デジタル技術に慣れていない人や、これらを自らは利用しない人も含め、デジタル化の恩恵をあらゆる人が享受できる環境の整備を進めています。
 仙台市においても、仙台市デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画における施策の一つとして「誰にも優しいデジタル化」を掲げ、取り組みが進められています。
 このたび、情報通信を用いた高齢者の自立した生活の延伸について研究を進めている東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターと協力し、東北大学・NTTコミュニケーションズ株式会社・仙台市との共同事業として、公益財団法人長寿科学振興財団の助成事業「高齢社会課題解決研究および社会実装活動への助成」に採択され、高齢者のデジタルリテラシーを向上させるエコシステムの開発と実装を目指す「SENSINプロジェクト」に取り組むこととしました。
 プロジェクトの実施に先立ち、キックオフ発表会を開催します。

※ 高齢社会課題解決研究および社会実装活動助成
 公益財団法人長寿科学振興財団が、Googleの慈善事業部門であるGoogle.orgの支援を受け、高齢者のデジタルデバイド解消等に取り組む大学、研究機関、自治体等を支援する事業。
 東北大学がNTTコミュニケーションズ株式会社・仙台市との共同事業として、「日本の高齢者のデジタルリテラシーを向上させるエコシステム開発と実装」の課題解決テーマに応募し、採択された。助成金額(事業費)は5千万円。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<事業全般に関すること>
国立大学法人東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センター
電話:022-717-8492
Eメール:sensin.sarc*grp.tohoku.ac.jp

<参加申込に関すること>
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社東北支社
電話:050-3813-9580
Eメール:comtohoku-sol3G2T*ntt.com

<キックオフ発表会に関すること>
仙台市まちづくり政策局 デジタル戦略推進部まちのデジタル推進課
電話:022-214-1248
Eメール:mac001735*city.sendai.jp
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免疫細胞の炎症制御「硫黄代謝」がカギ 〜マクロファージの硫黄代謝を標的とした創薬にむけて〜(遺伝子発現制御分野:本橋教授)

免疫細胞の炎症制御「硫黄代謝」がカギ 〜マクロファージの硫黄代謝を標的とした創薬にむけて〜(遺伝子発現制御分野:本橋教授)

【発表のポイント】
⚫ 炎症を制御する細胞であるマクロファージにおいて、炎症の終結に必要な代謝パスウェイ(注1)を同定しました。
⚫ 炎症刺激により活性化したマクロファージは、含硫アミノ酸であるシスチンを細胞外から取り込み、超硫黄分子(注2)を産生することで、炎症反応を終結させることを明らかにしました。

【概要】
マクロファージは免疫細胞の一種であり、病原体の感染や周りの細胞の損傷等により活性化し、病原体の排除や組織の修復を行います。しかし、過剰に活性化すると新型コロナ感染症で見られるような重症肺炎などの原因となる他、炎症が長引くと慢性閉塞性肺疾患などの慢性炎症性疾患、関節リウマチなどの自己免疫疾患ほか、さまざまな病気を引き起こします。
私たちが持っている細胞は本来、炎症反応を収束させ、過剰な炎症反応が起こることを防ぐメカニズムを兼ね備えていますが、マクロファージにおいて、その制御に関わる因子の全貌は明らかにされていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科の武田遥奈大学院生、加齢医学研究所環境ストレス老化研究センターの村上昌平助教、加齢医学研究所遺伝子発現制御分野の関根弘樹講師、本橋ほづみ教授らの研究グループは、マクロファージによる炎症反応の収束には「硫黄代謝」の活性化が鍵となることを明らかにしました。本研究では、マクロファージが取り込んだシスチンとその還元型であるシステインを基質として超硫黄分子が合成され、過剰な炎症応答を収束させるネガティブフィードバック機構が形成されることを明らかにしました。本研究成果は、マクロファージが本来持っている超硫黄分子による炎症抑制機構を強化することが、重症感染症や慢性炎症、自己免疫疾患などの創薬標的となる可能性を示唆しています。
本成果は、8月1日に欧州の学術誌 Redox Biolog 誌に掲載されました。
なお、本成果は熊本大学大学院生命科学研究部微生物学講座・澤智裕教授、九州大学生体防御医学研究所附属高深度オミクスサイエンスセンター・馬場健史教授、新潟大学医学部保健学科・佐藤英世教授、東北大学大学院医学系研究科環境医学分野・赤池孝章教授との共同研究により得られたものです。

【用語説明】
注1. 代謝パスウェイ:
代謝物が複数のタンパク質の働きによって変化していく一連の経路。
注2. 超硫黄分子:
硫黄原子が直列に連結した構造(硫黄カテネーション)を有する分子の総称。システインパースルフィドやグルタチオンパースルフィドなどがある。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 遺伝子発現制御分野 教授 本橋 ほづみ
E-mail:hozumi.motohashi.a7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

細胞分裂を制御する酵素 Aurora A が遺伝性乳がん関連分子を制御する新機構を発見 ーAurora A がユビキチン化能を持ち、中心体の成熟を促進ー(腫瘍生物学分野:千葉教授)

細胞分裂を制御する酵素 Aurora A が遺伝性乳がん関連分子を制御する新機構を発見 ーAurora A がユビキチン化能を持ち、中心体の成熟を促進ー(腫瘍生物学分野:千葉教授)

【発表のポイント】
⚫ がんで高発現などの異常が見られる分裂期キナーゼ(注1)Aurora A(注2)が、遺伝性乳がんの原因遺伝子 BRCA1(注3)の結合分子 OLA1 をユビキチン化(注4)して、中心体(注5)局在を減少させることを明らかにしました。
⚫ Aurora A による OLA1 のユビキチン化が、G2 期の中心体の成熟を促進し、その異常が中心体数の増加を起こすことで、発がんや悪性化の原因になると考えられます。
⚫ Aurora A の異常による新たな発がんの仕組みを明らかにしたことで、遺伝性乳がんを含めた、多くのがんの研究に貢献すると期待されます。

【概要】
細胞分裂時の染色体分配に重要な働きをする中心体の異常は、発がん過程やがんの悪性化を促進します。東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 千葉 奈津子教授らは、変異によって遺伝性乳がん・卵巣がん症候群を引き起こす遺伝子 BRCA1 が、OLA1 と結合して中心体の複製を制御し、その機能破綻が発がんに関与することを明らかにしてきました。
今回、東北大学 加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 方 震宙助手、同大学院生命科学研究科大学院生の 李 星明氏、加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 吉野 優樹助教、同大学大学院医学系研究科 森 隆弘教授(現所属:沖縄県立中部病院 腫瘍内科)らとの研究グループで、分裂期キナーゼ Aurora A が、OLA1 をユビキチン化して、細胞周期の G2 期の中心体局在を減少させることを明らかにしました。またこのユビキチン化が、分裂期キナーゼ NEK2 による OLA1 のリン酸化によって促進されること、さらに G2 期以降の中心体成熟を促進することを明らかにしました。Aurora A の異常は多くのがんで見られ、これまでキナーゼ活性が注目されていましたが、新たにユビキチン化能も重要であることを明らかになり、Aurora A の異常による新たな発がん機構が明らかになりました。

本研究成果は2023年7月21日、Cell Reports誌に掲載されました。

図 中心体成熟のモデル

【用語説明】
注1. 分裂期キナーゼ:
細胞分裂期に働く、タンパク質をリン酸化する酵素。
注2. Aurora A:
分裂期キナーゼの1つで、中心体、紡錘体極に局在し、細胞分裂に進行に重要な役割を果たす。PLK1 をリン酸化して活性化する。
注3. BRCA1:
BRCA2 とともに、遺伝子変異により遺伝性乳がん・卵巣がん症候群をひきおこすがん抑制遺伝子。
注4. ユビキチン化:
タンパク質の修飾機構の1つで、ユビキチンリガーゼにより、ユビキチンタンパク質が標的タンパク質に付加される。タンパク質分解、DNA 修復などのシグナルになる。
注5. 中心体:
核の近くの細胞質に存在する細胞内小器官であり、中心小体と、その周囲の中心小体周辺物質(pericentriolar material; PCM)からなる。中心小体は母中心小体と、その側壁に結合する娘中心小体からなり、L 字型の構造をとる。中心小体周辺物質には γ-tubulin 環が存在し、細胞骨格の一つである微小管の形成起点として働く。細胞分裂期には、中心体から微小管が伸長し、紡錘体極として紡錘体を形成し、染色体の均等な分配に機能する。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 教授 千葉 奈津子
E-mail:natsuko.chiba.c7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

全国8地域からなる大規模認知症コホート研究で社会的孤立と脳萎縮および白質病変との関連を報告 (臨床加齢医学研究分野:瀧教授)

全国8地域からなる大規模認知症コホート研究で社会的孤立と脳萎縮および白質病変との関連を報告 (臨床加齢医学研究分野:瀧教授)

【ポイント】
① 社会的孤立が脳萎縮等の脳の構造に及ぼす影響について、十分に解明されていなかった。
② 大規模認知症コホート研究:JPSC-AD研究に参加した65歳以上の認知症を有しない約9,000名の脳MRI検査や健診データを用いて、交流頻度と脳容積との関連を解析。
③ 脳萎縮や認知症発症を予防する上で、他者との交流頻度を増やし、社会的孤立を防ぐことが重要であることが示唆される。

【研究の概要】
社会的孤立による健康への影響が問題視されています。これまでに疫学調査において、社会的孤立により認知症の発症リスクが上昇することが報告されていますが、社会的孤立が脳萎縮等の脳の構造に及ぼす影響については十分に解明されていませんでした。
九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、同大学 心身医学の平林直樹講師らおよび弘前大学、岩手医科大学、金沢大学、慶應義塾大学、松江医療センター、愛媛大学、熊本大学、東北大学の共同研究グループは、健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究:JPSC-AD研究(※1)に参加した65歳以上の認知症を有しない8,896名の脳MRI検査や健診データを用いて、交流頻度と脳容積との関連を解析しました。交流頻度は、「同居していない親族や友人などとどの程度交流 (行き来や電話など)がありますか?」という質問によって毎日、週数回、月数回、ほとんどなしに分類しました。その結果、交流頻度の低下に伴い脳全体の容積や認知機能に関連する脳容積(側頭葉、後頭葉、帯状回、海馬、扁桃体)が有意に低下し、白質病変容積が有意に上昇しました(図)。さらに、それらの関連に抑うつ症状が15~29%関与しました。
本研究は横断研究であるため、因果関係を論じることには限界がありますが、脳萎縮や認知症発症を予防する上で、他者との交流頻度を増やし、社会的孤立を防ぐことが重要であることが示唆されます。今後は、前向き追跡調査の成績を用いて、社会的孤立と脳の構造変化及び認知症発症との関連を詳細に検討する予定です。

本研究成果は、2023年7月12日に国際学術誌Neurologyオンライン版に掲載され、米国神経学会からプレスリリースされました。

【用語説明】
※1 健康⻑寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究:Japan Prospective Studies Collaboration for Aging and Dementia(JPSC-AD)
我が国の 8 地域(⻘森県弘前市、岩手県矢巾町、石川県七尾市中島町、東京都荒川区、島根県海士町、愛媛県伊予市中山町、福岡県久山町、熊本県荒尾市)における地域高齢住⺠約1万人を対象とした大規模認知症コホート研究である。ベースライン調査は 2016 年−2018 年に実施され、予め 8 地域で標準化された研究計画に基づいて、詳細な臨床情報(認知機能を含む)、頭部 MRI 画像データ、遺伝子情報を収集している。さらに、認知症や心血管病の発症や死亡に関する追跡調査を継続している。
なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業の研究助成金を受けている。また、サントリーホールディングス株式会社との共同研究も実施している。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 臨床加齢医学研究分野 教授 瀧 靖之
E-mail:yasuyuki.taki.c7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

Karolinska Institutet – Tohoku University Meeting June 2023 の参加報告

2023年6月7−8日の2日間、カロリンスカ研究所と加齢医学研究研究所のジョイントシンポジウムが、スウェーデンのカロリンスカ研究所で開催されました。当研究所からは若手研究者を含む13名が参加し、脳科学研究、老化研究、がん研究などの領域にわたり、最新の成果を紹介し、共同研究に向けた議論を行いました。スウェーデンの日本大使である能化正樹さまも参加してくださり、日本とスウェーデンの生命科学領域での交流のさらなる促進を応援いただきました。来年度には、仙台での第2回のジョイントシンポジウムの開催を検討しています。

プログラム

「Karolinska Institutet – Tohoku University Meeting June 2023に参加して」生体情報解析分野 准教授 河岡慎平

「Karolinska Institutet – Tohoku University Meeting June 2023に参加して」統合生理学研究分野 准教授 佐藤亜希子

加齢に伴う酸化ストレスが染色体不安定性をひき起こす ー 老化すると遺伝情報が安定に保たれなくなる一因を解明 ー(分子腫瘍学研究分野:田中教授)

加齢に伴う酸化ストレスが染色体不安定性をひき起こす ー 老化すると遺伝情報が安定に保たれなくなる一因を解明 ー(分子腫瘍学研究分野:田中教授)

【発表のポイント】
⚫ 年をとったマウスの細胞では、染色体不安定性(細胞が分裂する時に染色体が均等に分配されない状態が存在する結果、染色体の数や構造の異常が増加しており、)これにはミトコンドリアの機能低下に起因する酸化ストレスが関係していることがわかりました。
⚫ 遺伝情報が安定に保たれないことは老化の特徴の一つとされており、本研究で見られた染色体不安定性は、その一因として老化に伴うがんなどの病態の発生に関係していることが考えられます。

【概要】
遺伝情報が安定に保たれなくなることは、老化の特徴の一つとされています。その一方で、遺伝子の集合体である染色体の数や構造に異常が起こることと老化との関係についてはよくわかっていません。
東北大学加齢医学研究所・分子腫瘍学研究分野の陳冠大学院生(研究当時)、田中耕三教授らの研究グループは、年をとったマウスの細胞では、染色体の数や構造の異常が高頻度で発生する状態である染色体不安定性が見られることを示しました。
この染色体不安定性の発生には、細胞内のミトコンドリア(注 1) の機能低下に起因する酸化ストレスが関係していることがわかりました。染色体不安定性は、多くのがんで見られる特徴でもあり、老化に伴う染色体不安定性は、遺伝情報の変化をひき起こし、がんなどの病態の発生に関係することが考えられます。

本研究成果は、6月8日に学術誌 Journal of Cell Science 誌に発表されました。

図 老化により染色体不安定性が生じる過程
老化に伴ってミトコンドリアの機能が低下し、活性酸素種が増加することにより酸化ストレスが生じる。酸化ストレスは DNA 複製のスムーズな進行を妨げ(複製ストレス)、複製ストレスは染色体の数や構造の異常の増加(染色体不安定性)をひき起こす。

【用語説明】
注1. ミトコンドリア:
細胞内小器官の一つであり、酸素を利用してエネルギー(ATP)を産生するが、その過程で活性酸素種が生じ得る。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 分子腫瘍学研究分野 教授 田中 耕三
E-mail:kozo.tanaka.d2*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)