COVID-19 治療薬の副作用の仕組みを解明 ー受容体経路を抑制することで副作用改善の可能性ー(モドミクス医学分野:魏教授)

COVID-19 治療薬の副作用の仕組みを解明 ー受容体経路を抑制することで副作用改善の可能性ー(モドミクス医学分野:魏教授)

【発表のポイント】
⚫ COVID-19 治療薬として使われるレムデシビルについては、頻度は低いものの心機能の副作用が報告されていましたが、そのしくみは不明でした。
⚫ 受容体を網羅的に探索することにより、レムデシビルが心筋細胞に発現するウロテンシン受容体 (注 1) を活性化することを見出しました。
⚫ レムデシビルの副作用は、ウロテンシン受容体経路を抑制することで改善される可能性が示されました。

【概要】
COVID-19 に対する抗ウイルス薬として使用されるレムデシビルは、頻度は低いものの、洞性徐脈(どうせいじょみゃく)(注 2) や低血圧、QT 時間 (注 3) 延長といった心機能への副作用が報告されており、その影響が懸念されています。しかし、その機序は不明でした。
東北大学加齢医学研究所の小川亜希子助教、魏范研教授、同大学医学部生の大平晟也氏、大学院薬学研究科の井上飛鳥教授らは、九州大学大学院薬学研究院、国立医薬品食品衛生研究所との共同研究により、レムデシビルが心筋細胞に発現するウロテンシン受容体 (注 1) を活性化することで受容体応答を引き起こし、心機能に影響を与えることを発見しました(図 1)。
核酸の一種であるアデノシンが細胞膜上に存在する受容体を活性化することは古くから知られていましたが、そのアナログ製剤であるレムデシビルの受容体活性については知られていませんでした。本研究で新たに明らかにした受容体経路を抑制することで、レムデシビル使用による副作用の改善が期待されます。

本研究結果は5月12日付で科学誌 Communications Biology に掲載されました。

図1 本研究の概要

【用語説明】
注 1.ウロテンシン受容体
受容体とは外界や体内からの何らかの刺激を受け取るタンパク質で、多くは細胞膜に存在しています。ウロテンシン受容体はウロテンシンⅡ(UTⅡ)と結合し、心血管収縮あるいは神経伝達などの作用を持つことが知られています。

注 2.洞性徐脈
心臓の拍動のリズムは正常ながら、脈が遅い状態。安静時の心電図で脈が50/分未満のものを言います。

注 3.QT 時間
心電図における心室興奮の始まりから消退するまでの時間。この時間が長くなると重篤な不整脈を発症する恐れがあります。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 モドミクス医学分野 教授 魏 范研、助教 小川 亜希子
E-mail:fanyan.wei.d3*tohoku.ac.jp
akiko.ogawa.e5*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

EU閣僚と駐日EU代表団ご来訪

 「G7仙台科学技術大臣会合」開催に関連して、5月11日(木)に
Maria-Cristina Russo 氏 (Director for Global Approach and International Cooperation in Research and Innovation, Directorate-General for Research and Innovation, European Commission ) をはじめとするEU閣僚や駐日EU代表団の方々に、加齢医学研究所にご訪問いただきました。
 当日は田中所長から概要説明の後、河岡准教授から取組事例の説明を行い、環境要因を考慮したがんの発生・進行に関する研究やがん悪液質に関する研究を中心に、EUの研究・イノベーション等の各政策や、日本学術振興会や科学技術振興機構の各制度も活用した研究交流について意見交換を行い、今後のEU諸国と加齢医学研究所の、さらなる国際共同研究を推進することについて議論いたしました。


1) 意見交換の様子
2) 河岡准教授から取組事例
3) EU閣僚や駐日EU代表団と加齢医学研究所教員の記念撮影

遺伝子一つを再発現しただけで細胞死が起きた! ー転写因子 BACH1 の再発現によるフェロトーシスモデル細胞が完成ー(分子腫瘍学研究分野:田中教授)

遺伝子一つを再発現しただけで細胞死が起きた! ー転写因子 BACH1 の再発現によるフェロトーシスモデル細胞が完成ー(分子腫瘍学研究分野:田中教授)

【発表のポイント】
⚫ 転写因子注1BACH1注2を欠損した線維芽細胞注3で、BACH1を再発現させると、フェロトーシス注4という細胞死が起きることを発見しました。
⚫ このフェロトーシスが周囲の細胞へ伝播することを確認しました。
⚫ 将来、「この線維芽細胞を腫瘍内に入れて、そこでフェロトーシスを誘導することで、がんを縮小させる」細胞療法注5の実現が期待されます。

【概要】
フェロトーシスは、2012年に報告された鉄依存性の細胞死で、生体内でがん細胞の除去機構として働くことが分かっています。「がん組織でフェロトーシスを誘導することで、がんを縮小させる」という、新たながん治療戦略が期待されています。
東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の西澤弘成(にしざわ ひろなり)博士、五十嵐和彦(いがらし かずひこ)教授らの研究グループは、加齢医学研究所の田中耕三(たなか こうぞう)教授らとの共同研究により、線維芽細胞で転写因子BACH1を再発現させると、薬剤を使わなくてもフェロトーシスが誘導できることを発見しました。これは過去に報告のない、新たなフェロトーシスモデル細胞です。さらにフェロトーシスが分泌物質を介して、このモデル細胞から周囲の細胞へ伝播、拡散していくことも突き止めました。
「腫瘍内にこのモデル細胞を埋め込むことで、がん組織にフェロトーシスを拡散させ、がんを縮小させる」という細胞療法に発展することが期待されます。

本研究の成果は、2023年4月24日に日本生化学会英文誌The Journal of Biochemistryにて発表されました。

図:BACH1再発現によるフェロトーシスモデル
BACH1欠損線維芽細胞に、BACH1遺伝子を導入してBACH1を再発現させると、還元剤除去をきっかけに細胞が自動的にフェロトーシスを起こして、死滅する。

【用語説明】
注1 転写因子:
遺伝子の発現を調節するタンパク質。転写を活性化するものと抑制するものがあります。

注2 BACH1:
ヘムや酸化ストレスに応答する転写抑制因子として、酸化ストレス下での細胞の反応に重要な役割を持つことが以前から知られています。2020年に、本研究チームは「BACH1がフェロトーシスの強力な促進因子である」ことを報告しました。

注3 線維芽細胞:
体内の各所に存在し、コラーゲンなどの間質成分を作り出すことで臓器のメンテナンスをしていると考えられています。後述の、マウス胎仔線維芽細胞を含め、線維芽細胞は増殖力が高く、細胞生物学、分子生物学実験でも頻繁に使用されます。

注4 フェロトーシス:
2012年にDixonらによって新しく報告された細胞死機構。細胞内自由鉄(Fe2+)を触媒として細胞膜リン脂質の過酸化反応が連鎖し脂質ヒドロキシラジカルが蓄積することで細胞が死に至ると考えられています。自由鉄を除去する鉄キレート剤の投与によって抑制されます。

注5 細胞療法:
細胞を体内に入れることで特定の疾患を治療する方法。現在、実用化されているものとしては、移植片対宿主病に対して、間葉系の幹細胞を投与するテムセル® (JCRファーマ)などがあります。

詳細(プレスリリース本文)

THE JOURNAL OF BIOCHEMISTRY

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 分子腫瘍学研究分野 教授 田中 耕三
E-mail:kozo.tanaka.d2*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

ニコチンアミドメチル基転移酵素による脂質代謝制御 ー S-アデノシルメチオニン量の調節を介したしくみの解明 ー(生体情報解析分野:河岡准教授)

ニコチンアミドメチル基転移酵素による脂質代謝制御 ー S-アデノシルメチオニン量の調節を介したしくみの解明 ー(生体情報解析分野:河岡准教授)

【発表のポイント】
⚫ ニコチンアミドメチル基転移酵素 (NNMT)注1 がニコチンアミド代謝と脂質代謝を繋ぐことを明らかにしました。
⚫ このリンクの鍵は、NNMT およびその他多くのタンパク質が基質として利用する「S-アデノシルメチオニン」であることを明らかにしました。
⚫ NNMT の脂質代謝における貢献度はその細胞の系譜や状態によって異なることも明らかにしました。

【概要】
NNMT はがんに起因する肝臓の異常において重要な分子で、脂肪肝などとの関わりも指摘されています。しかし NNMT が肝臓の代謝をどのように調節しているのかについてはよくわかっていませんでした。
東北大学 加齢医学研究所 生体情報解析分野 河岡慎平准教授 (兼務:京都大学医生物学研究所 臓器連関研究チーム 特定准教授) の研究チームは、NNMT による S-アデノシルメチオニン注 2 の制御が間接的に脂質代謝に影響することを発見しました。
NNMT は脂肪肝などとの関わりも指摘されており、本研究が NNMT という重要な分子の作用機序を理解する重要な基盤となることが期待されます。

本研究成果は 2023 年 4 月 4 日に日本生化学会英文誌 The Journal of Biochemistry に掲載されました。

図:AML12細胞では NNMTは S-アデノシルメチオニン (SAM) の主な消費者であり、NNMTを阻害するとSAMが蓄積し、その結果として中性脂肪が減少することが今回明らかになりました。NAM; ニコチンアミド、MNAM; メチルニコチンアミド、SAH; S-アデノシルホモシステイン。

【用語説明】
注1. ニコチンアミドメチル基転移酵素 (NNMT)
S-アデノシルメチオニンのメチル基をニコチンアミドへと移し、メチルニコチンアミドとS-アデノシルホモシステインを生成する酵素。マウスでは肝臓や脂肪組織で強く発現している。

注2. S-アデノシルメチオニン
代謝物の一種で、メチル基の供与体としてはたらく。S-アデノシルメチオニンのメチル基はさまざまな酵素に利用され、メチル基の受け手となるタンパク質や代謝物の性質を変化させる。S-アデノシルメチオニンのメチル基がとれたものが S-アデノシルホモシステインである。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 生体情報解析分野 准教授 河岡 慎平
TEL:022-717-8568
E-mail:shinpei.kawaoka.c1*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
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老化に伴う睡眠障害をもたらす神経細胞を同定 ー食餌制限によって改善されるメカニズムを解明 ー(統合生理学研究分野:佐藤亜希子准教授)

老化に伴う睡眠障害をもたらす神経細胞を同定 ー食餌制限によって改善されるメカニズムを解明ー(統合生理学研究分野:佐藤亜希子准教授)

【発表のポイント】
⚫ マウスの老化に伴う睡眠の不具合、睡眠断片化注1 を引き起こす重要な神経細胞として、脳内の視床下部に存在する神経細胞を同定しました。
⚫ この神経細胞で Prdm13 注2 遺伝子を欠損させたマウスでは、若齢にもかかわらず、老齢マウスのような睡眠断片化が認められました。
⚫ 食餌制限が老化に伴う睡眠断片化を顕著に改善すること、また、Prdm13 陽性神経細胞がこの改善に必須であることを明らかにしました。
⚫ Prdm13 遺伝子の発現を老齢マウスの視床下部で高めると、睡眠の不具合が有意に改善され、Prdm13 陽性経細胞の機能回復が老化に伴う睡眠の不具合改善に重要であることが明らかとなりました
。

【概要】
老化に伴う様々な睡眠の不具合は、私たちの日々の生活へ悪影響を及ぼしうる大きな社会問題となっています。
東北大学加齢医学研究所の佐藤亜希子准教授(兼務:国立長寿医療研究センター研究所)と国立長寿医療研究センター研究所の辻将吾研究員を中心とする研究チームは、老齢マウスに認められる睡眠断片化に関わる神経細胞として、脳内の視床下部に Prdm13 陽性神経細胞を見出しました。また老化に伴う睡眠断片化は食餌制限により顕著に改善することができ、その作用には Prdm13 陽性神経細胞が必須である、ということも明らかにしました。
本研究は、国内外の複数の研究機関(ワシントン大学(米国ミズーリ州)、至学館大学、名古屋大学、筑波大学、大阪大学、国立長寿医療研究センター)との共同研究により実施されました。

本研究成果は、EMBO、Rockefeller University、Cold Spring Harbor Laboratory が共同発行する国際科学誌 Life Science Alliance において、2023 年 4 月 12 日にオンライン版で発表されました。

図:視床下部背内側部の Prdm13 陽性神経細胞の機能低下が老化マウスに認められる異常な睡眠覚醒形態(睡眠断片化)を引き起こす

【用語説明】
注1 睡眠の断片化:睡眠エピソードの平均の長さが短くなり、エピソードの回数が増える現象。これにより睡眠の連続性が低下し、睡眠の質の低下につながるとされている。老化だけではなく神経変性疾患などの病態でも起こることが知られ ている。
注2 PR ドメインとジンクフィンガードメインを含むタンパク質。視床下部に発現する神経ペプチドの発現量を調節している。

詳細(研究成果本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 統合生理学研究分野 准教授 佐藤 亜希子
E-mail:akiko.satoh.b7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

田中所長の就任式が行われました

2023年4月1日、加齢医学研究所所長に田中耕三教授(分子腫瘍学研究分野)が就任いたしました。

新所長からのご挨拶
加齢研の “今とこれから”
加齢医学研究所は、結核とハンセン病の克服を目的として1941年に創立された抗酸菌病研究所を前身として、1993年に改組により発足ました。これは、高齢者率が今や30%に迫る超高齢社会に突入した我が国の課題を先取りしたものであり、以来加齢医学研究所では、老化のメカニズムの解明・難治性がんの克服・認知症の予防など、様々な側面から世界を先導する研究を行なっています。
私たちは、加齢による変化に賢く対処し、個人・社会が知的に成熟することを「スマート・エイジング」と呼び、スマート・エイジング社会の実現を目標に掲げています。この目的のために、分子生物学的手法を用いた遺伝子や細胞の研究から、動物実験による個体レベルの研究、さらにヒトを対象とした研究まで、多階層的な医学研究を行なっており、超高齢社会への対処法について世界を先導する研究拠点となることを目指します。
加齢医学研究所 所長 田中耕三

RNA 修飾と生活習慣病に関する総説論文を発表 ー 新たな治療法や予防法の開発に期待 ー(モドミクス医学分野:魏教授)

RNA 修飾と生活習慣病に関する総説論文を発表 ー 新たな治療法や予防法の開発に期待 ー(モドミクス医学分野:魏教授)

【発表のポイント】
⚫ 生体内におけるRNA修飾注1の役割、およびRNA修飾と生活習慣病注2の関わりについて概説した。
⚫ 環境要因によるRNA修飾の制御、RNA修飾と後天的ゲノム修飾注3の関わりについて考察した。
⚫ RNA修飾に着目した生活習慣病の研究によって、肥満や糖尿病に対する新たな治療法や予防法の開発が期待される。

【発表概要】
肥満や糖尿病などの生活習慣病の発症には、環境要因が深く関わっています。これまでの生活習慣病の研究では、遺伝子や後天的ゲノム修飾(エピゲノム)に着目した研究が中心に行われてきました。RNA修飾はRNAの安定性、細胞内局在、および翻訳の効率を調節することにより、遺伝子発現注4に大きな影響を与えます(図)。近年、RNA修飾と生活習慣病に関する研究が報告されているが、これらの研究を概説した総説はありませんでした。
東北大学大学院医学系研究科/東京大学先端科学技術研究センターの酒井寿郎教授、東北大学加齢医学研究所の魏范研教授、東北大学医学系研究科の松村欣宏准教授は、RNA修飾(エピトランスクリプトミクス)と代謝性疾患の研究について概説した総説論文を発表しました。
本総説論文では、生体内におけるRNA修飾の役割を説明し、RNA修飾と生活習慣病の最新の研究を概説しました。また、環境要因がどのようにRNA修飾を制御し、RNA修飾がどのように後天的ゲノム修飾と関わり、疾患の発症や予防に働くのかについて考察しました。
本総説論文により今後のRNA修飾に着目した生活習慣病の研究が加速し、肥満や糖尿病に対する新たな治療法や予防法につながることが期待されます。

本研究成果は2023年3月23日に国際科学誌『Nature Metabolism』オンライン版に掲載されました。

図:環境要因によるRNA修飾と後天的ゲノム修飾の制御。環境要因は後天的ゲノム修飾だけでなく、RNA修飾を変化させ、遺伝子発現を調節し、疾患の発症と予防に寄与する。

【用語説明】
注1. RNA修飾
DNAから転写されたRNAが受ける多様な化学修飾。RNA修飾の研究をエピトランスクリプトミクスと呼ぶ。現在までに約170種類におよぶRNA修飾が見つかっている。RNA修飾は、RNAの安定性、細胞内局在、翻訳の効率を制御する。

注2. 生活習慣病
食習慣、運動習慣、飲酒等の生活習慣(環境要因)が、その発症・進行に関わる疾患。例えば、糖尿病、肥満、高脂血症、高血圧症。

注3. 後天的ゲノム修飾
ゲノムDNAのメチル化、ヒストンタンパク質の多様な化学修飾。エピゲノムとも呼ばれる。環境要因は細胞内に伝わり、後天的ゲノム修飾を変化させ、遺伝子発現を調節する。後天的ゲノム修飾の異常は、生活習慣病の発症と関わる。

注4. 遺伝子発現
遺伝情報をもとに目的のタンパク質をつくるまでの過程を意味する。細胞内でDNAは先ずRNAに転写され、RNAはタンパク質に翻訳される。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 モドミクス医学分野 教授 魏 范研
TEL:022-717-8562
E-mail:fanyan.wei.d3*tohoku.ac.jp
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<報道に関すること>
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がんに起因して起こる宿主の肝臓の急性期応答と炎症 ー 血清アミロイドαは乳がんモデルにおける肝臓の炎症の原因ではない ー(生体情報解析分野:河岡准教授)

がんに起因して起こる宿主の肝臓の急性期応答と炎症 ー 血清アミロイドαは乳がんモデルにおける肝臓の炎症の原因ではない ー(生体情報解析分野:河岡准教授)

【発表のポイント】
⚫ 乳がんをもつマウスの肝臓では急性期応答と炎症が同時に観察されます
⚫ がんによる急性期応答と炎症には因果関係があると示唆されてきました
⚫ 急性期応答タンパク質 Saa1-2 と炎症の関係を調べました
⚫ 本モデルにおいては Saa1-2 がなくとも炎症が起こることがわかりました

【概要】
がんをもつ個体では肝臓で急性期応答 (注1) と炎症 (注2) が起こることが知られています。急性期応答とは、感染やがんなどによって肝臓で急性期応答タンパク質が作られ、これらのタンパク質濃度が血中で著しく増えることをいいます。血清アミロイド α (注3) は急性期応答タンパク質の代表の一つです。これらのタンパク質は炎症を惹起すると考えられています。実際、血清アミロイド α と炎症マーカーの量は強く相関します。その一方で、がんをもつ個体の肝臓における炎症に対して血清アミロイド α がどの程度寄与するのかについての検討は十分ではありませんでした。
東北大学加齢医学研究所 河岡慎平准教授 (兼務:京都大学 医生物学研究所) と京都大学医学部附属病院乳腺外科 河口浩介助教の研究チームは、血清アミロイド α を完全に失わせたマウスを作製し、血清アミロイド α ががんによる肝臓の炎症に重要なのかどうかを検証しました。その結果、血清アミロイド α がなくても肝臓の炎症が起こることがわかりました。この発見は、遺伝子発現レベルでの因果関係があるように見えても機能的な因果関係がない場合があることを示す例といえます。本研究により、がんが引き起こす炎症と急性期応答の因果関係に関する理解が深まることが期待されます。

本研究成果は 2023 年 2 月 3 日にスイスの学術誌である Frontiers in Immunology に掲載されます。

図:遠隔にあるがんは骨髄や肝臓における遺伝子発現を変化させ、炎症を引き起こします。Saa1-2 はそのような変化の代表例ですが、このがんモデルにおいては、Saa1-2 の存否によらず炎症が起こるということがわかりました。

【用語説明】
(注 1) 急性期応答
がんの存在や感染に肝細胞が応答し、免疫系を活性化する分子を多量に産生するようになります。例えば血清アミロイド α はそのような分子の一つです。これらの分子 (この場合タンパク質) は血液に放出され、血中における濃度が急激に高まります。この現象のことを急性期応答と言います。

(注 2) 炎症
感染や創傷などの刺激に対して免疫細胞が活性化され、そのような免疫細胞がダメージを受けた組織に集まってくることを指して炎症といいます。今回の乳がんモデルでは、がんによって活性化された好中球などの免疫細胞が肝臓に集まってきます。このことを肝臓の炎症と記載しています。

(注 3) 血清アミロイド α
英語で Serum amyloid alpha (SAA) といいます。マウスの場合には Saa1 から Saa4 までの Saa 遺伝子が存在しています。このうち、Saa1 と Saa2 は非常によくにた遺伝子であり、機能が重複していると考えられています。本研究では、Saa1 と Saa2 の両方を完全に欠失させたマウスを作りました。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 生体情報解析分野 准教授 河岡 慎平
TEL:022-717-8568
E-mail:shinpei.kawaoka.c1*tohoku.ac.jp
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<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
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