スマート・エイジング社会の実現に向けて

日本人の平均寿命は戦後70年間で30年以上延長し、私たちは100年前と比べて倍近い人生を生きられるようになりました。一方65歳以上の高齢者率が30%に迫ろうとする超高齢社会においては、高齢化にともなう様々な医学的・社会的問題が顕在化しています。私たちは、これらの問題に対処するための目標として、スマート・エイジング社会の実現を掲げています。「スマート・エイジング」とは、加齢による変化に賢く対処し、個人・社会が知的に成熟することを意味し、超高齢社会において私たちが活力を持ち続けるための鍵となる考え方です。

加齢医学研究所では、生命の誕生から発達、成熟、老化、死に至る加齢の基本的メカニズムを解明するために、分子生物学的手法を用いた遺伝子や細胞の研究から、動物実験による個体レベルの研究、さらにヒトを対象とした研究まで、多階層的な医学研究を行なっています。そしてこれらの研究によって、難治性がんの克服や認知症の予防などを目指しています。当研究所は、加齢制御研究部門、腫瘍制御研究部門、脳科学研究部門の3つの部門に加えて、環境ストレス老化研究センター、非臨床試験推進センター、脳MRIセンター、医用細胞資源センターを擁し、多彩な研究活動を行なっています。また認知症ゼロ社会実現を目指すスマート・エイジング学際重点研究センターと密接に連携しています。さらに当研究所は、超高齢社会における健康長寿の実現に向けて、文部科学省から加齢医学研究拠点に認定されており、加齢医学の中核的センターとして先導的な国内外の共同研究を展開しています。

高度高齢化社会への対応は、先進国を中心として各国共通の課題として認識されており、私たちはスマート・エイジング、すなわち全ての人が高齢期を積極的に受容し、社会で活動し続けることを可能とする方策を示すことによって、世界を先導する研究拠点となることを目指します。

加齢医学研究所長  田中 耕三