マスクの低着用率や高い人的接触レベルがインフルエンザ流行と関係する 〜感染症対策の有効性を改めて示唆〜(認知機能発達寄附研究部門:竹内准教授)

マスクの低着用率や高い人的接触レベルがインフルエンザ流行と関係する ~感染症対策の有効性を改めて示唆~(認知機能発達寄附研究部門:竹内准教授)

【発表のポイント】
⚫ 2020 年半ば、通常なら年半ばにインフルエンザが流行している時期、感染対策の水準が高いほとんどの国で、インフルエンザはパンデミック前に比べて激減していた。
⚫ 2020 年終盤-2021 年序盤、2021 年中盤、2021 年終盤-2022 年序盤の 3 シーズンについて、大規模なオープンデータを用いて,感染症対策とインフルエンザ流行の関係を解析した。
⚫ インフルエンザ検出率の低さは、3 シーズンでマスクの使用率の高さと統計的に有意に関連があり,2 シーズンで人的接触程度の低さと関連があり,1 シーズンで規制政策の厳格指数の高さと弱い関連があることが示された。

【概要】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとインフルエンザの流行との関係に注目が集まっています。東北大学加齢医学研究所・認知機能発達(公文教育研究会)寄附研究部門の竹内光准教授・川島隆太教授らの研究グループは、COVID-19 パンデミック下の国別のインフルエンザサーベイランスデータを用いて、各国のベースラインとの比較で、インフルエンザの検出率が各国のマスク着用率、人的接触の程度、複合規制政策の厳しさの程度とどう関連しているかを、北半球と南半球で流行の多い 4 シーズン(20,21 年の 26 週目、52 週目からの 12 週間)で解析しました。2020 年半ばには、分析したほとんどの国で感染対策の水準が高く、インフルエンザはパンデミック前に比べほとんどの国で激減していました。残りの 3 シーズンの解析で、インフルエンザ検出率の低さは 3 シーズンでマスクの使用率の高さと統計的に有意に関連があり,2 シーズンにおいて、人的接触の程度の低さと関連があり、1 シーズンにおいて規制政策の厳格指数の高さと弱い関連がありました。今回の知見により、COVID-19 の感染症対策がインフルエンザの流行に影響を及ぼしていることが示唆されます。

本研究成果は、2023 年 1 月 13 日にウイルス学術誌 Viruses 電子版に掲載されました。

図:NPI とインフルエンザのコロナ前と比べた検出率の関連

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 認知機能発達寄附研究部門 准教授 竹内 光
TEL:022-717-8457
E-mail:hikaru.takeuchi.b5*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

がんが宿主の臓器に及ぼす悪影響を捉えた ー がんをもつ個体における「肝機能の空間的制御」の破綻 ー(生体情報解析分野:河岡准教授)

がんが宿主の臓器に及ぼす悪影響を捉えた ーがんをもつ個体における「肝機能の空間的制御」の破綻 ー(生体情報解析分野:河岡准教授)

【発表のポイント】
⚫ がんをもつマウスともたないマウスの肝臓の遺伝子発現を1細胞トランスクリプトーム解析(注 1)と空間トランスクリプトーム解析(注 2)によって調べました
⚫ がんが遠隔にある肝臓の空間的な遺伝子発現パターン(注 3)を撹乱することを明らかにしました
⚫ がんによって宿主個体の肝臓に生じる異常の全貌を理解するための重要な基盤となることが期待されます

【概要】
がんは宿主個体の肝臓にさまざまな悪影響を及ぼします。しかし、その全貌は未だ明らかではありません。特に、肝臓の空間的遺伝子発現パターン―肝臓には、栄養や酸素の勾配に応じて空間的に遺伝子発現を変化させるしくみが存在します―にどのような影響が生じるかは不明でした。京都大学医生物学研究所 Alexis Vandenbon 准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科 鈴木穣教授、東北大学加齢医学研究所 河岡慎平准教授 (兼務:京都大学医生物学研究所) の研究チームは、京都大学医学部附属病院、岐阜大学大学院医学系研究科、熊本大学大学院生命科学研究部と共同で、1細胞トランスクリプトームと空間トランスクリプトームという二つの手法を組み合わせることで、がんが宿主個体の肝臓の空間的遺伝子発現パターンを撹乱することを発見しました。がんによる肝臓への悪影響の新たな側面を明らかにする研究であり、悪影響を適切に制御するための重要な基盤となることが期待されます。

本研究成果は 2023 年 1 月 24 日に英国の学術誌である Communications Biology 電子版に掲載されました。

図:本研究のイメージ図。肝臓における遺伝子発現パターンは空間的に制御されています。肝機能の空間的制御は肝臓が適切に働くために重要です。今回の研究では、遠隔にあるがんが肝臓の空間的遺伝子発現パターンを撹乱することを発見しました (イラスト協力: 河岡侑理)。

【用語説明】
(注 1) 1細胞トランスクリプトーム
一つ一つの細胞に含まれるメッセンジャーRNA (transcript: トランスクリプト)の種類や量を測定・分析することを 1 細胞トランスクリプトームと言います。本来臓器は多様な細胞の集まりです。臓器に含まれる細胞の状態を 1 細胞レベルで調べる方法の一つです。

(注 2) 空間トランスクリプトーム
対象臓器の空間情報を保持したままメッセンジャーRNA (transcript: トランスク
リプト) の種類や量を測定・分析する手法のことを空間トランスクリプトームと言います。興味のある遺伝子発現が対象とする臓器のどの領域で起こっているかを明らかにできる優れた手法です。本研究で用いた空間トランスクリプトーム法には 1 細胞の解像度はありませんが、1 細胞トランスクリプトームと組み合わせることで、より高解像度の解析を実施することができます。

(注 3) 肝臓における空間的な遺伝子発現パターン
肝臓の主要な機能を担う肝細胞の機能はその空間的な配置に影響されることが知られています。門脈付近に位置する肝細胞は栄養や酸素に富んだ血液にアクセスできるため、いわゆるエネルギー代謝に関わる経路が活性化されています。 エネルギー代謝によって栄養や酸素が枯渇した血液はやがて中心静脈から肝臓外へと出ていきます。中心静脈付近の肝細胞では、解毒系の代謝経路が活性化されています。肝臓において、その遺伝子発現や機能が空間的に制御されていることを、専門用語で zonation (ゾネーション) と言います。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 生体情報解析分野 准教授 河岡 慎平
TEL:022-717-8568
E-mail:shinpei.kawaoka.c1*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

川島隆太教授の研究内容が大学受験予備校四谷学院の「学部学科がわかる本」で紹介されました!

川島隆太教授の研究内容が大学受験予備校四谷学院の「学部学科がわかる本」で紹介されました!

毎日の「学校の勉強」や志望大学に合格するための「受験勉強」。時にはやる気が出ないことや、部活との両立に悩むこともあるが、がんばって取り組むことに意味はあるのか。将来の役に立つのか。「脳」のしくみを追求し、研究成果を実社会へ応用する川島隆太教授へのインタビュー記事が大学受験予備校・四谷学院のサイト上に掲載されました。「学校の勉強」や「受験勉強」をすることには意味があるのか。大変面白く、分かりやすく解説されています。

川島教授インタビュー

染色体分離を制御するセパレース活性制御機構の解明 ー がんの染色体分離異常に着目した、新たな治療法につながる成果 ー(分子腫瘍学研究分野:田中教授)

染色体分離を制御するセパレース活性制御機構の解明 ーがんの染色体分離異常に着目した、新たな治療法につながる成果 ー(分子腫瘍学研究分野:田中教授)

【ポイント】
⚫ セパレース活性化動態の異常を防ぐための分子メカニズムを解明しました。
⚫ セパレースの自己切断によって、染色体分離直前のサイクリン B1 によるセパレース活性制御が増強されました。
⚫ サイクリン B1 によるセパレース活性制御が弱くなると、染色体分離異常が頻発しました。
⚫ セパレース活性動態の異常を防ぐための機構は、がんの染色体分離異常に着目した新たな治療法の標的となることが期待されます。

【概要】
がん細胞は盛んに分裂を繰り返して増殖します。その過程で、染色体分離※1の異常を頻繁に引き起こしてしまうため、染色体数が多様な細胞(異数体細胞※2といいます)が多く作りだされています。このような染色体分離の異常ががん細胞で頻発する原因については、これまでの研究で、がん細胞では染色体分離のトリガーとなるセパレース※3という酵素の活性が早期に漏洩してしまう、ということまではつきとめられていました。セパレースの活性制御機構として、セキュリンとサイクリン B1 の結合による活性抑制機構があることはわかっていましたが、活性化動態の異常が生じるメカニズムを十分には説明できていませんでした。

がん研究会がん研究所・実験病理部の広田亨(ひろたとおる)部長の研究チームは、セパレースの活性化動態の異常を防ぐための機構として、サイクリン B1 によるセパレース活性制御を促進する機構が存在することを発見しました。この機構によりセパレース活性の早期漏洩が防止され、染色体分離の異常が防止されていました。

本研究は、元実験病理部研究員・現宮城県立がんセンター(安田純研究所長)の進藤軌久研究員と東北大学加齢医学研究所(川島隆太研究所長)の田中耕三教授との共同研究で行われました。

本研究成果は、2022 年 11 月 29 日(日本時間 11 月 30 日、午前 1 時)に米国科学雑誌「Cell Reports」 オンライン版に掲載されました。

図:がん細胞におけるセパレース活性化動態の異常

【用語説明】
※1 染色体分離:細胞の遺伝情報は染色体という構造体に含まれており、ヒトの細胞には46本の染色体があります。細胞が分裂する前にゲノム情報が複製され、92本の姉妹染色分体と呼ばれる構造体ができますが、お互いのコピーである姉妹の染色分体はすぐには分離せず、コヒーシンと呼ばれる接着因子によって繋ぎとめられています。細胞が分裂して2つの娘細胞ができるときに、このコヒーシンがセパレースと呼ばれるタンパク質分解酵素によって切断され、それぞれの染色体は均等に娘細胞に分配されます。がん細胞ではこの染色体分離過程にエラーが生じて、異数体細胞※2が作りだされています。
 ※2 異数体細胞:上述のようにヒトの細胞の染色体数は46本ですが、多くのがん細胞はそこから大きく逸脱した染色体数になっています。このように染色体数が46本以外の多様な本数になっている細胞を異数体細胞と呼びます。染色体は遺伝情報を含んでいますので、その本数がバラバラということは異なる性質を持った細胞、すなわち多様性の高い細胞、が多く存在しているということになります。このようながん細胞の多様性は、がんの治療を難しくする一因となっています。
 ※3 セパレース:染色体分離時、姉妹染色分体間のコヒーシンを切断するタンパク質分解酵素です。染色体分離以前には、セキュリンとサイクリン B1 が結合することによってセパレース活性は抑制されています。セパレースはコヒーシン以外にもセパレース自身も切断する「自己切断」と呼ばれる活性を持っています。本研究はこの自己切断の意義の解明から発展しました。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所・分子腫瘍学研究分野 教授 田中 耕三
TEL:022-717-8491
E-mail:kozo.tanaka.d2*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

転写因子Nrf2は他のbZIP型転写因子よりDNAに強く結合し、酸化ストレス応答やがん化に関わることが明らかに(遺伝子発現研究分野:本橋教授)

転写因子Nrf2は他のbZIP型転写因子よりDNAに強く結合し、酸化ストレス応答やがん化に関わることが明らかに(遺伝子発現研究分野:本橋教授)

【研究成果のポイント】
⚫ 酸化ストレス応答やがん化に関与する転写因子 Nrf2 が DNA に結合した複合体の立体構造を解明
⚫ Nrf2 は特徴的な CNC モチーフを持つことで、他の bZIP 型転写因子より強く標的遺伝子に結合して発現を厳密に制御
⚫ 研究成果は Nrf2 の過剰発現によるがん化やがん治療抵抗性に対する新たな創薬への手がかりを提供

【概要】
横浜市立大学大学院医学研究科 生化学 仙石徹准教授、椎名政昭助教、緒方一博教授らの研究グループは、立命館大学生命科学部、理化学研究所生命機能科学研究センター、常葉大学保健医療学部、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、東北大学加齢医学研究所との共同研究で、酸化ストレス*1 応答*2 や肺がんなどのがん化に重要な役割を果たす転写因子*3 である Nrf2 の立体構造を解明し、Nrf2 は bZIP 型類似転写因子より強く DNA に結合することで遺伝子発現を厳密に制御していることを明らかにしました。本研究は、Nrf2 の過剰発現によるがん化やがん治療抵抗性の詳細なメカニズム理解へ手がかりを提供します。

本研究成果は、オックスフォード大学出版局の科学雑誌「Nucleic Acids Research」に掲載され ました。(2022 年 12 月 1 日オンライン)

図:左、Nrf2や他の転写因子の機能ドメインマップ。中央、Nrf2とMafGのDNA結合領域が標的DNAに結合した複合体の立体構造。右、代表的なbZIP型転写因子であるFosとJunが標的DNAに結合した複合体の立体構造。

【用語説明】
*1 酸化ストレス:細胞がスーパーオキシドやヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素など反応性の高い活性酸素種に暴露された状態。放射線による酸素の励起やミトコンドリアでの酸化的リン酸化など様々な要因によって細胞内で発生する。
 *2 酸化ストレス応答:細胞が活性酸素の産生が増加した酸化ストレス状態や発がん作用を有する親電子物質に曝露された状態に置かれた時、DNA やタンパク質を守るための酵素(解毒酵素、抗酸化物質合成酵素、還元剤 NADPH の生成を担うペントースリン酸経路の代謝酵素など)や毒物を排泄するための薬剤トランスポーターなどの遺伝子の発現が活性化されて細胞をダメージから回避する機能。
 *3 転写因子:特定の DNA 配列に結合して転写を制御するタンパク質。転写を活性化するものと抑制するものが存在する。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
(報道に関すること)
東北大学 加齢医学研究所 広報情報室
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

「令和5年度東北大学加齢医学研究所共同利用・共同研究の公募について」

「令和5年度東北大学加齢医学研究所共同利用・共同研究の公募について」

東北大学加齢医学研究所では、加齢医学に関する共同利用・共同研究を行っております。
募集要項のとおり公募いたしますので、奮ってご応募ください。

【詳細URL】
https://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/joint-program

【問い合わせ先】
加齢医学研究所 研究推進係 022-717-8445
ida-sen@grp.tohoku.ac.jp

佐藤亜希子准教授(統合生理学研究分野)が第17回生命医科学研究所ネットワーク国際シンポジウムでBest Oral Presentation Awardを受賞しました

佐藤亜希子准教授(統合生理学研究分野)が第17回生命医科学研究所ネットワーク国際シンポジウムでBest Oral Presentation Awardを受賞しました

佐藤亜希子准教授は、”The role of hypothalamic neurons in sleep, aging and longevity”という演題で、第17回生命医科学研究所ネットワーク国際シンポジウムでBest Oral Presentation Awardを受賞しました。
生命医科学研究所ネットワーク国際シンポジウムは、附置研究所の取り組み及び研究成果を明確に社会へ発信し、より一層社会への貢献に資することを目的として、12の生命・医学系附置研究所が参画して毎年1回開催しているものです。第17回生命医科学研究所ネットワーク国際シンポジウムは、2022年10月13〜14日に金沢大学がん進展制御研究所で行われました。

[問い合わせ先]
東北大学加齢医学研究所統合生理学研究分野
TEL: 022-717-8491

がんゲノム医療のさらなる拡大へ向けた一歩 – コンピュータ解析で意義不明変異のなかに治療標的となる新たな遺伝子変異を発見 -(分子腫瘍学研究分野:宇井准教授)

がんゲノム医療のさらなる拡大へ向けた一歩 – コンピュータ解析で意義不明変異のなかに治療標的となる新たな遺伝子変異を発見 -(分子腫瘍学研究分野:宇井准教授)

【発表のポイント】
⚫がんゲノムデータベースに登録される約7万種類の遺伝子変異のコンピュータ解析により、RETがん遺伝子に新たな治療標的となる遺伝子変異があることを発見しました。
⚫がんゲノム医療の現場で同定される意義の不明な遺伝子変異の中には、既存の抗がん剤の治療効果が見込まれる治療標的変異が含まれていることが示されました。
⚫ 様々な遺伝子の意義不明変異を意義付けすることで、がんゲノム医療による患者さんの治療機会が拡大することが期待されます。

【概要】
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)、学校法人慈恵大学(理事長:栗原 敏、東京都港区)、国立大学法人京都大学(総長:湊 長博、京都市左京区)、国立大学法人筑波大学(学長:永田 恭介、茨城県つくば市)などからなる研究チームは、がんゲノムデータベースに登録される約7万種類の遺伝子変異に対するコンピュータ解析やそれに基づく細胞実験を行い、これまで薬剤の有効性が確認できておらず意義が不明とされていた変異のなかから既存薬剤のRET阻害薬による治療効果が見込まれる新たなRET遺伝子の変異を発見しました。RET遺伝子の変異は、甲状腺がんをはじめとして幅広いがんに見られますが、RET阻害薬の有効性を確認できているのは特定の変異を有する一部の患者さんで、意義が不明の変異を有する患者さんにおいての有効性はその多くが解明されていませんでした。

がんゲノム医療の現場では、RET遺伝子に限らず、さまざまな遺伝子で意義の不明な遺伝子変異が頻繁に見つかります。本研究により意義の不明な遺伝子変異の中には、既存の抗がん剤の治療効果が見込まれる治療標的変異が含まれていることが示され、今後、コンピュータ解析によりこれらの変異の意義を推定していくことにより、患者さんの抗がん剤による治療機会が拡大することが期待されます。

本研究は、国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野 中奥敬史主任研究員、河野隆志分野長、東京慈恵会医科大学産婦人科学講座 田畑潤哉医員、岡本愛光教授、京都大学大学院医学研究科 荒木望嗣特定准教授、奥野恭史教授、筑波大学医学医療系 吉野龍ノ介助教、東北大学加齢医学研究所 宇井彩子准教授、東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 関嶋政和准教授らからなる研究チームにより行われたもので、研究成果は科学誌「Cancer Research」に 9 月 27 日に掲載されます。

図 コンピュータ解析による意義不明変異の意義付け

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【問い合わせ先】
(報道に関すること)
東北大学 加齢医学研究所 広報情報室
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
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世界初のアルツハイマー病に対する超音波治療の開発 – 探索的治験で期待される結果 -(認知症治療医薬開発寄附研究部門:荒井名誉教授)

世界初のアルツハイマー病に対する超音波治療の開発 – 探索的治験で期待される結果 -(認知症治療医薬開発寄附研究部門:荒井名誉教授)

【研究のポイント】
⚫超高齢社会においてアルツハイマー病の患者が世界的に急増しているが、有効で安全な治療法の開発が待たれている。
⚫低出力パルス波超音波(low-intensity pulsed ultrasound:LIPUS) 治療が、アルツハイマー病に対し、有効かつ安全であることを動物モデルにおいて世界で初めて明らかにしていた。
⚫ さらに、早期アルツハイマー病の患者に対して LIPUS 治療の探索的治験を実施した結果、その安全性が確認され、有効性を強く示唆する結果が得られた。
⚫ 今後、症例数を増やした最終的な検証的治験で確認される必要がある。

【概要】
現在、超高齢社会を迎え、アルツハイマー病の患者が世界的に急増していますが、有効で安全な治療法の開発が待たれています。東北大学大学院 医学系研究科の下川宏明客員教授らの研究グループは、低出力パルス波超音波(low-intensity pulsed ultrasound:LIPUS) がマウスのアルツハイマー病モデルにおいて有効かつ安全であることを示し、また、その詳細な作用機序を明らかにしてきました。この結果に基づき、2018 年~2021 年にかけて早期アルツハイマー病の患者を対象に、探索的治験を実施しました。その結果、LIPUS 治療の安全性が確認され、有効性が強く示唆される結果が得られました。この探索的治験の結果は、9 月 15 日に国際的な英文総合医学雑誌 Tohoku Journal of Experimental Medicine にオンライン掲載されました。

このアルツハイマー病に対する LIPUS 治療機器は、9 月 5 日付けで厚生労働省の「先駆的医療機器指定制度」の対象品目に指定されました。
tanaka

図 低出力パルス波超音波治療
(A)パルス波超音波の照射条件 、(B)治療装置の外観と装着の様子、(C)ランダム化比較試験(RCT trial)の治療スケジュール

【用語説明】
 低出力パルス波超音波:人間の可聴域を超える周波数(20kHz以上)を持った波は超音波と呼ばれ、媒質を振動して伝導する縦波(疎密波)から構成される。パルス波は、連続的に音波を発信し続ける連続波とは対照的に、断続的に音波を発信する照射方法であり、生体内の機械的振動によって生じる熱の発生を抑えられるため、連続波よりも高い強度での照射が可能になる。

詳細(プレスリリース本文)

記者説明会の様子(東北大学東京分室)
2022年9月16日(金)開催

【問い合わせ先】
(報道に関すること)
東北大学 加齢医学研究所 広報情報室
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
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遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因となる BRCA1 の新たながん抑制能を発見 -核内の DNA 損傷シグナルを核の外に伝達して細胞死へ-(腫瘍生物学分野:千葉教授)

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因となる BRCA1 の新たながん抑制能を発見 -核内の DNA 損傷シグナルを核の外に伝達して細胞死へ-(腫瘍生物学分野:千葉教授)

【発表のポイント】
⚫ 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因遺伝子 BRCA1 注1 の、DNA 損傷シグナルを中心体 注2 に伝達するがん抑制能を明らかにしました。
⚫ DNA 損傷後にリン酸化された BRCA1 が核外に移動して、中心体の数を増加させることを明らかにしました。
⚫ DNA 損傷後に BRCA1 が、分裂期キナーゼ(酵素)である Aurora A 注3 の中心体局在を増加させ、別の分裂期キナーゼ PLK1 注4 を活性化して、 中心体複製を起こすことを明らかにしました。
【概要】
がん抑制遺伝子 BRCA1 は、その遺伝子変異によって、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群を引き起こします。東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 教授 千葉 奈津子、同大学院医学系研究科 大学院生 斉 匯成(さい かいせい)(研究当時、 現順天堂大学)、同大学院生命科学研究科 大学院生 菊地 めぐみ(研究当時)、 東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 助教 吉野 優樹、東京工科大学 応用 生物学部 教授 岩渕 徳郎らの研究グループは、その遺伝子産物であるタンパク質 BRCA1 が、DNA 損傷が起こると ATM にリン酸化されて核外に移動し、分裂期キナーゼである Aurora A の中心体局在を増加させることで PLK1 を活性化し、中心体数を増加させることを明らかにしました。これは BRCA1 の新たながん抑制能の発見です。

本研究成果は2022年9月9日、Cancer Science 誌に掲載されました。

tanaka

図 DNA 損傷後に、BRCA1 が ATM にリン酸化されて、核外に移動して BRCA1 の中心体局在が亢進し、Aurora A の中心体局在を促進する。Aurora A が PLK1 をリン酸化して中心小体解離を引き起こし、それにより中心小体の過剰複製が起こる。それにより、中心体数が増加する。中心体数が増加した多くの細胞は分裂期細胞死を起こす。

【用語説明】
注1:BRCA1 : BRCA2 とともに、遺伝子変異により遺伝性乳がん・卵巣がん症候群をひきおこすがん抑制遺伝子。
注2:中心体 : 核の近くの細胞質に存在する細胞内小器官であり、中心小体と、その周囲の中心小体周辺物質(pericentriolar material; PCM)からなる。中心小体は母中心小体と、その側壁に結合する娘中心小体からなり、L 字型の構造をとる。中心小体周辺物質にはγ-チュブリン環が豊富に存在し、細胞骨格の一つである微小管の形成起点として働く。細胞分裂期には中心体から微小管が伸長し、紡錘体を形成する。
注3:Aurora A : 分裂期キナーゼの 1 つで、中心体、紡錘体極に局在し、細胞分裂に進行に重要な役割を果たす。PLK1 をリン酸化して活性化する。
注4:PLK1 : 分裂期キナーゼの 1 つで、中心体、紡錘体極などに局在し、細胞分裂に進行に重要な役割を果たす。中心体では、中心小体の複製に重要な中心小体解離を引き起こす。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野
教授 千葉 奈津子
電話 022-717-8477
E-mail natsuko.chiba.c7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所広報情報室
電話番号:022-717-8443
E-mail ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)