GFAP 遺伝子の変異が認知症の発症に関わる大脳白質病変に影響 〜脳画像所見における遺伝的要素の新知見〜(スマート・エイジング学際重点研究センター:瀧 靖之教授)

【ポイント】
① MRI でみられる大脳白質病変は脳卒中や認知症の発症に関わる重要な所見ですが、アジア人における遺伝的要因は明らかになっていませんでした。
② 大規模認知症コホート研究である JPSC-AD 研究(※ 1)に参加した約 9,500 名の脳 MRI 検査とゲノム情報を用いて、大脳白質病変に関連する遺伝子領域を検討しました。
③ 東アジア人で比較的多くみられる GFAP 遺伝子の変異が大脳白質病変に関連していることを示し、さらにこれまで報告されていなかった新たな領域を 1 か所同定しました。

【研究の概要】
 大脳白質病変は脳 MRI 画像でよくみられる病変で、脳卒中や認知症の発症にかかわる重要な所見です。大脳白質病変は高血圧などの生活習慣病があると出現しやすいことが報告されていますが、遺伝的要因も関与することが知られています。これまでの研究で大脳白質病変に影響する遺伝要因が明らかにされてきましたが、アジア人を対象としたものは数百人程度での小規模な解析に限られていました。
 九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、 病態機能内科学の古田芳彦助教、眼病態イメージング講座の秋山雅人講師、および弘前大学、岩手医科大学、金沢大学、慶應義塾大学、松江医療センター、愛媛大学、熊本大学、東北大学、理化学研究所生命医科学研究センターらの共同研究グループは、健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究:JPSC-AD 研究の参加者 9,479 人の脳 MRI 検査とゲノムデータを用いてゲノムワイド関連解析(Genome-Wide Association Study [GWAS(※ 2)])を行い、大脳白質病変容積に関連する遺伝子座を検索しました。その結果、大脳白質病変容積に関連する遺伝子座として 17 番染色体の GFAP 遺伝子の 295 番目のアミノ酸を変える変異を同定しました。さらに、英国の UK バイオバンク(※ 3)研究の GWAS データとの統合解析を実施した結果、20 か所の遺伝子座が大脳白質病変容積に関連しており、そのうち 6 番染色体(SLC2A12 遺伝子(※ 4))に存在する 1 か所の遺伝子座が新規の遺伝子座であることを明らかにしました。
 本研究成果は、2024 年 11 月 13 日午後 7 時(日本時間)に国際学術誌 npj Genomic Medicine オンライン版に掲載されます。

図:JPSC-AD と UK バイオバンクのゲノムワイド関連解析(GWAS)を統合した結果。
横軸は染色体上の位置、縦軸に関連の強さを表し、各点が変異を示している。緑色の点の集まりは今回初めて明らかになった遺伝子座(SLC2A12)を示している。

【用語解説】
※ 1 健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究:Japan Prospective Studies Collaboration for Aging and Dementia(JPSC-AD)
我が国の 8 地域(青森県弘前市、岩手県矢巾町、石川県七尾市中島町、東京都荒川区、島根県海士町、愛媛県伊予市中山町、福岡県久山町、熊本県荒尾市)における地域高齢住民約1万人を対象とした大規模認知症コホート研究である(https://www.eph.med.kyushu-u.ac.jp/jpsc/)。
ベースライン調査は 2016 年-2018 年に実施され、予め 8 地域で標準化された研究計画に基づいて、詳細な臨床情報(認知機能を含む)、頭部 MRI 画像データ、遺伝子情報を収集している。さらに、認知症や心血管病の発症や死亡に関する追跡調査を継続している。

※ 2 ゲノムワイド関連解析:Genome-Wide Association Study(GWAS)
ヒトゲノムの全域に分布する遺伝的変異と、臨床検査値などの量的な形質や病気との因果関係を網羅的に検討する遺伝統計解析手法。これまでに、数百を超える形質や病気を対象に実施され、数多くの関連遺伝的変異が同定されている。

※ 3 UK バイオバンク
英国で行われている世界最大規模のバイオバンクで、約 50 万人の参加者を対象として、遺伝情報、疾患情報、血液などの多彩な情報・試料を収集している。情報は世界中の研究者に提供され、多数の研究結果が発表されている。

※ 4 SLC2A12遺伝子
細胞がブドウ糖などの糖を取り込むのを助ける GLUT12 と呼ばれるタンパク質をコードしている遺伝子。GLUT12 は脳内のアストロサイトに発現していることが示されている。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センター 教授 瀧靖之(タキ ヤスユキ)
TEL:022‐717‐8582
Mail:yasuyuki.taki.c7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学 加齢医学研究所 臨床加齢医学研究分野 助教 舘脇康子(タテワキ ヤスコ)
TEL:022‐717-8559
Mail:yasuko.tatewaki.a7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学 加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
Mail:ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

腫瘍や炎症・神経活動に関わる A3 受容体の薬剤選択のメカニズムを解明(東北大学 加齢医学研究所:魏 范研教授)

腫瘍や炎症・神経活動に関わる A3 受容体の薬剤選択のメカニズムを解明(東北大学 加齢医学研究所:魏 范研教授)

【発表のポイント】
⚫ RNA の代謝産物である m6A が結合したアデノシン A3 受容体と三量体 G タンパク質 Giとの複合体構造の構造解析に成功しました。
⚫ m6A 以外にもアデノシンやその修飾体、アゴニストなどの構造解析により、A3受容体の選択性について構造的・機能的に明らかにしました。
⚫ 本研究は修飾アデノシンとA3 受容体の関係に示唆を与えるのみならず、アデノシン受容体を標的とした創薬への構造的知見を与えるものです。

【概要】
 東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授と、東北大学加齢医学研究所の魏范研教授らによる研究グループは、アデノシン(注 1)やその修飾体などによって活性化したアデノシン A3受容体と三量体 G タンパク質 Gi(注 2)とのシグナル伝達複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)(注 3)による単粒子解析(注 4)によって決定しました。
 A3 受容体は、がん細胞や免疫細胞で多く見られ、新たな薬剤標的として注目されています。特に、修飾アデノシン(注 5)である m6A(注 6)という修飾アデノシンがアデノシン受容体の中でもA3 受容体を選択的に活性化することが知られていましたが、その詳しい仕組みは分かっていませんでした。
 今回の研究では、m6A に結合した A3 受容体と三量体 G タンパク質 Gi との複合体構造を決定し、また新たに i6A(注 7)という修飾アデノシンが A3 受容体を選択的に活性化することを発見しました。また、A3 受容体は他の受容体にはない疎水性のポケットを持っており、選択的な薬剤はこのポケットと結合することで効果を発揮することを明らかにしました。
 この成果は、A3 受容体を標的とした新しい薬の開発に繋がり、がんや炎症の治療に貢献することが期待されます。

図:A3R-Gi 複合体の全体構造

【用語説明】
(注 1)アデノシン
アデニンとリボースからなるヌクレオシド。RNA を構成する四種類のヌクレオシドの中の一つであることに加え、アデノシン受容体と結合してシグナル伝達物質として働くほか、cAMPや ATP など、別のエネルギー伝達物質やシグナル伝達物質の材料ともなる。
 
(注 2)三量体 G タンパク質 Gi
G タンパク質は、細胞内情報伝達に関わる GTP 結合タンパク質であり、Gα、Gβ、Gγ、サブユニットの三量体により構成されている。活性化された G タンパク質共役受容体と結合した G タンパク質三量体では、GDP-GTP 交換反応が起き、GαとGβ-Gγα サブユニットは大きく Gs、Gi、Gq/11、G12/13 の四種類に分別され、特に Gi は、下流で細胞内cAMP 濃度を低下させることでさまざまなシグナルを伝える。
 
(注 3)クライオ電子顕微鏡
液体窒素(-196℃)冷却下でタンパク質などの分子に対して電子線を照射し、試料の観察を行うための装置。タンパク質や核酸をはじめとする生体高分子の像を多数撮影することで立体構造の決定を行う、単粒子解析法に用いられる。
 
(注 4)単粒子解析
多数の均一な粒子を観察、撮影し、画像処理によって粒子の詳細な構造を得る手法。単一の撮影像よりも分解能を向上させることができるほか、さまざまな方向を向いた粒子を撮影することで、三次元立体構造を把握することが可能となる。
 
(注 5)修飾アデノシン
アデノシンの各部位に化学修飾が施されたアデノシン。アデノシンを含め、修飾ヌクレオシドの役割は近年注目を集めている。
 
(注 6)m6A(N6-メチルアデノシン)
アデニン N,6 位の窒素原子がメチル化された分子。mRNA に存在する m6A 修飾が mRNA の局在や安定性、翻訳効率を制御しさまざまな生命現象に関わる。その一方で、修飾を受けた RNA が分解・代謝された後にその産物が細胞外へ分泌されることが近年明らかになり、中でも m6A はアデノシン A3受容体を強力に活性化することを著者らのグループが報告した。

(注 7)i6A(N6-イソペンテニルアデノシン)
アデニンN6 位の窒素原子がイソペンテニル化された分子。哺乳動物では特定の tRNA のアデノシンが tRNA isopentenyltransferase1(TRIT1)という酵素によって修飾されることで生成される。ミトコンドリア病患者の一部では TRIT1 遺伝子変異を有することが知られている。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合せ先】
<研究に関すること>
東北大学 加齢医学研究所
教授 魏 范研(うぇい ふぁんいぇん)
TEL:022-727-8569
E-mail:fanyan.wei.d3*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

天然還元水の認知機能に対する有効性の解明 〜抗酸化作用を持つ天然還元水の継続摂取によって認知機能が改善〜(東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター:瀧靖之教授 / 品田貴光助手)

天然還元水の認知機能に対する有効性の解明 〜抗酸化作用を持つ天然還元水の継続摂取によって認知機能が改善〜(東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター:瀧靖之教授 / 品田貴光助手)

【概要】
 世界および日本で急速に進む超高齢化社会においては、認知症患者が増えており、脳の健康を維持して認知症を予防し、健康寿命を延伸することが重要です。認知症発症のリスクは様々ありますが、その中で酸化ストレスや糖尿病などが挙げられます。これまでの天然還元水の細胞実験、動物実験、ヒト研究において、活性水素や豊富なミネラルを含む天然還元水が活性酸素 (Reactive Oxygen Species)を除去することや血糖値上昇を抑制することが報告されてきました。よって、天然還元水の摂取による認知機能への有効性が示唆されていましたが、直接的に天然還元水と認知機能の関連を調査した研究はありませんでした。
 そこで東北大学と株式会社日田天領水は共同研究において、健常高齢者が 6 カ月間、天然還元水および水道水のグループに分かれて継続摂取したときの認知機能への影響を調査したところ、天然還元水のグループにおいて注意力(TMT-A)や短期記憶(DS-F)の認知機能が介入後に有意に改善されました。本研究により、天然還元水による認知機能低下の抑制効果が示唆され、今後超高齢化社会における認知症予防や健康寿命延伸に寄与するための基礎的な知見になり得ます。本研究の成果は、2024 年 10 月 2 日に科学雑誌 Heliyon にオンライン掲載されました。

詳細は次をご覧ください。
詳細

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センター
教授 瀧 靖之 / 助手 品田 貴光
TEL: 022-717-8582
Email:nmr_office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
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細胞死の新たなバイオマーカーを発見! 〜フェロトーシス細胞でのビリベルジン動態を計測〜(分子腫瘍学研究分野:田中耕三教授)

細胞死の新たなバイオマーカーを発見! 〜フェロトーシス細胞でのビリベルジン動態を計測〜(分子腫瘍学研究分野:田中耕三教授)

【発表のポイント】
⚫ 鉄依存性の細胞死であるフェロトーシス(注 1)時に細胞内のビリベルジン(注 2)量が減少することを、シアノバクテリア(ラン藻)(注 3)由来の光受容体タンパク質 (シアノバクテリオクロム)(注 4)を用いて発見しました。
⚫ ビリベルジンの減少は、フェロトーシスに特有の現象であることが分かりました。
⚫ シアノバクテリオクロムによるビリベルジン測定は、フェロトーシスの新たなバイオマーカー(注 5)として、がん治療の効果や感受性の判定に役立つことが期待されます。

【概要】
 ラン藻由来のタンパク質が、がん治療の効果判定の鍵になる可能性を発見しました。フェロトーシスは 2012 年に報告された鉄依存性の細胞死で、生体内でがん細胞の除去機構として働くことが分かっています。また化学療法や免疫療法によってがんが縮小する際にフェロトーシスが起きることも明らかになっています。
 東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の西澤弘成非常勤講師、中嶋一真(現平鹿総合病院) 、五十嵐和彦教授らと東北大学加齢医学研究所分子腫瘍学研究分野の田中耕三教授らの研究グループは、東京都立大学の成川礼准教授との共同研究により、シアノバクテリア由来の光受容体タンパク質であるシアノバクテリオクロムを用いて、フェロトーシス時に細胞内のビリベルジン量が大きく減少することを突き止めました。これはフェロトーシス特有の現象であり、ビリベルジンがフェロトーシスのバイオマーカーとして、将来、がん治療の効果や感受性の判定に利用できる可能性を示すものです。
 本研究の成果は、2024 年 9 月 28 日に日本生化学会英文誌 The Journal of Biochemistry にオンライン掲載されました。概要は YouTube の医学系研究科生物化学分野チャンネルでもご覧いただけます(https://youtu.be/VmgcKvqcYhc)。

図:フェロトーシス誘導時に細胞内ビリベルジンが減少する
(A) シアノバクテリオクロムで細胞内のビリベルジン量を測定した。フェロトーシス誘導剤の投与によって、ビリベルジンが多い細胞の割合が減少した。論文内では細胞内ビリベルジン量の平均値が下がることも示している。
(B) 概念図
細胞にフェロトーシス誘導刺激を加えると、細胞死 (フェロトーシス) が起きるとともに細胞内ビリベルジンが大きく減少する。

【用語説明】
注1.  フェロトーシス
2012 年に Dixon らによって新しく報告された細胞死機構。細胞内自由鉄(Fe2+)を触媒として細胞膜リン脂質の過酸化反応が連鎖し脂質ヒドロキシラジカルが蓄積することで細胞が死に至ると考えられています。自由鉄を除去する鉄キレート剤の投与によって抑制されます。
注2.  ビリベルジン
赤血球の主成分であるヘモグロビンの分解で生じる生成物。このビリベルジンがさらにビリルビンに変換され、肝臓に取り込まれ修飾されてから胆管を経て消化管に排泄されます。ビリベルジンには光を吸収する作用や還元作用、抗炎症作用もあることがわかっています。
注3.  シアノバクテリア
光合成を行う細菌の一種。水中や湿潤な環境に広く分布し、以前はラン藻とも呼ばれていました。
注4.  シアノバクテリオクロム
シアノバクテリアが発現する光受容体タンパク質。この光受容体によって、シアノバクテリアは可視光を検知し、光合成などの細胞内機能を調節することができます。
注5.  バイオマーカー
医学、薬学、生理学などの分野において、疾患や生理現象の有無や変化を予測するための指標となる数値や物質のことをいいます。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
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AI とのおしゃべりによる認知症予防について Starley 株式会社と共同研究を開始(東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター:瀧靖之教授)

AI とのおしゃべりによる認知症予防について Starley 株式会社と共同研究を開始(東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター:瀧靖之教授)

【概要】
音声会話型おしゃべり AI アプリ「Cotomo」を開発する Starley 株式会社は、東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターとの共同研究の開始します。Starley 株式会社は AI とのおしゃべりによるシニアの認知症予防の実現と、その家族とのコミュニケーションの活性化を目指し、「Cotomo」の技術を活かした新たなサービス(以下、「新サービス」)を開発しました。本共同研究において、東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター瀧靖之研究室は新サービスの使用が認知・心理機能に与える効果を検証するため「思い出話ができる音声会話型 AI の使用が認知・心理機能に与える効果に関する予備研究」を実施いたします。

詳細は次をご覧ください。
詳細

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
Starley 株式会社 サービスサイト:https://starley.co.jp/s

東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター
教授 瀧 靖之
TEL: 022-717-8582
Email:nmr_office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
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“被写体に触れる” 2.5次元写真が高齢者のウェルビーイングを高める効果を検証(東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター:瀧靖之教授)

“被写体に触れる” 2.5 次元写真が高齢者のウェルビーイングを高める効果を検証(東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター:瀧靖之教授)

【概要】
 写真の中の大切な家族やペットに、もう一度触れたいと思ったことはありませんか?ウェルビーイングを高めるには、大切な人を抱きしめる、可愛がっているペットを撫でるといった、「大切な対象に触れる」ことが効果的であることがわかっています。また、家族やペットの写真を飾ることも、心身にポジティブな効果を与えます。
 通常、写真の被写体には直接触れることは出来ません。しかし、株式会社アド・シーズの高精細特殊立体描画技法で印刷された 2.5 次元写真ならば、“被写体に触れる” ことができます。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターと株式会社アド・シーズは、 “被写体に触れる” 2.5 次元写真を 1 か月間毎日触れながら鑑賞することによって、高齢者にどのような心理的変化が生じるのかを、従来の写真と比較して調査しました。その結果、写真の種類にかかわらず、孫や子ども、ペットの写真を身近に飾ることが高齢者の主観的幸福感と主観的な睡眠の質を高めることが示されました。また、2.5 次元写真を初めて見て触った高齢者は、従来の写真では感じられなかった「驚き」「嬉しさ」を感じていることも明らかになりました。
 本成果は 8 月 30 日、日本感性工学会論文誌に掲載されました。

詳細は次をご覧ください。
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【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター
教授 瀧 靖之
TEL: 022-717-8582
Email:nmr_office*grp.tohoku.ac.jp
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乳がん細胞は、リンパ節で CD169 陽性マクローファージを選択的に排除し、免疫監視機構を破綻させる 〜乳がん治療における新たな標的の発見〜(生体情報解析分野:河岡准教授)

乳がん細胞は、リンパ節で CD169 陽性マクローファージを選択的に排除し、免疫監視機構を破綻させる 〜乳がん治療における新たな標的の発見〜(生体情報解析分野:河岡准教授)

【概要】
 京都大学大学院医学研究科 乳腺外科 客員研究員/三重大学医学部附属病院乳腺センター 教授 河口浩介、東北大学 加齢医学研究所 准教授/京都大学 医生物学研究所 特定准教授 河岡慎平並びに京都大学大学院医学研究科 乳腺外科 医員 前島佑里奈らの研究グループは、乳がんのリンパ節転移の過程で、抗腫瘍免疫の鍵となる CD169 陽性マクローファージが選択的に排除されることを明らかにしました。
 乳がんは女性に最も多いがんであり、しばしばリンパ節に転移します。リンパ節転移は予後不良の指標となるため、乳がんがどのようにリンパ節内の免疫細胞から逃れるのかを理解することは重要です。本研究では、乳がん患者から採取した転移・非転移リンパ節のトランスクリプトーム解析および空間的トランスクリプトーム解析から、CD169 陽性マクローファージの減少が乳がん細胞のリンパ節転移と密接に関わることを発見しました。CD169 陽性マクローファージは、がん細胞の破片を貪食し、T 細胞に抗原提示をすることで抗腫瘍免疫を惹起する重要な免疫細胞ですが、転移リンパ節では著明に減少していました。また、58 名の乳がん患者の 474 リンパ節の検討により、この現象がすべての乳がんサブタイプに共通することを確認しました。
 本研究成果は、乳がんのリンパ節転移における CD169 陽性マクローファージの重要性を示しており、新たな治療ターゲットとしての可能性を示唆し、乳がん治療の発展に寄与することが期待されます。
 本成果は、2024 年 8 月 21 日に国際学術誌「eBioMedicine」誌にオンライン掲載されました。

図 研究の概要:リンパ節で CD169 陽性マクローファージが排除され、免疫監視機構が破綻する

【用語解説】
⚫︎ 空間トランスクリプトーム解析:病理切片組織を用いて、細胞の位置情報を保ちながら、スポットごとの遺伝子発現を網羅的に解析する手法です。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 生体情報解析分野 准教授 河岡 慎平
TEL:022-717-8568
E-mail:shinpei.kawaoka.c1*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

三分以内の血液循環再開を目指す新補助循環システム 〜胸部銃創のような緊急時に救命を図る左室直接穿刺の補助人工心臓の開発〜(非臨床試験推進センター:白石准教授)

三分以内の血液循環再開を目指す新補助循環システム 〜胸部銃創のような緊急時に救命を図る左室直接穿刺の補助人工心臓の開発〜(非臨床試験推進センター:白石准教授)

【発表のポイント】
⚫ 胸部銃撃のような緊急時には止血と循環再開が急がれます。
⚫ 心臓の血液循環を再開させるダイレクト左室穿刺と大腿動脈送血の補助循環の特許を取得しました。
⚫ 今後、心臓以外の事故や救命救急の現場における実用化や、緊急用の完全埋込型補助心臓の実現への貢献が期待されます。

【概要】
 心臓が銃撃などで傷ついたときには止血と大量補液、特に循環再開が重要です。血液の循環停止から脳死に至るまでのタイムリミットは 3 分とされており、その前に循環を再開できる補助循環システムの実用化が望まれています。
 東北大学加齢医学研究所の白石泰之准教授、C&T Lab の木島利彦氏、電気通信研究所の石山和志教授、加齢研のフランシス・チクエート助教、山家智之教授らは、新しい小型軽量シンプルな埋込型ポンプの「三分以内に挿入できる補助循環システム」を発明しました。左室に直接穿刺して補助循環を確立するもので、緊急時に循環再開を可能とするものとして実用化が期待されます。
 本成果は基本特許を申請、取得しました(特許 7233077 号)。またデバイスの開発と基本性能などの研究成果は、2024 年 7 月 15 日から、米国オーランドにて開催される学会 the 46th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society で発表され、同時にオンラインにて論文公開されました。

図 三分以内の循環再開のために

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所
准教授 白石泰之
TEL:022-717-8517
Email:yasuyuki.shiraishi.d1*tohoku.ac.jp
教授 山家智之
Email:yambe*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

ストレスによる持続的な不安のメカニズムを解明! 〜PTSD モデル動物の脳形態変化〜(応用脳科学研究分野 現・新潟医療福祉大学心理健康学科:領家助教)

ストレスによる持続的な不安のメカニズムを解明! 〜PTSD モデル動物の脳形態変化〜(応用脳科学研究分野 現・新潟医療福祉大学心理健康学科:領家助教)

【発表のポイント】
⚫ 心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder: PTSD)は難治性の精神疾患で、動物モデルによる神経生物学的機序の理解が PTSD 治療に有用であることがわかりました。
⚫ 複数のストレスを受けたラットにおける不安行動と脳形態を長期的に計測しました。
⚫ 多重ストレスが長期的に続く不安を引き起こす脳内メカニズムを、不安行動と脳形態の変化から明らかにした成果です。

【概要】
 心身に大きな傷となるような経験は、持続的で制御できない恐怖や不安を引き起こします。
 東北大学加齢医学研究所の領家梨恵非常勤講師(新潟医療福祉大学助教)の研究グループは、複数のストレスと長期的な不安行動の観察及び脳画像撮像を組み合わせることで、持続的な不安が大人の雄ラットの脳に与える影響を検証しました。複数ストレスを受けたラットは、ストレスを受けないラットと比べて、以前にストレスを受けた場所で長い時間動けなくなる(フリーズする)状態が続きました。脳形態解析により、不安反応(フリーズ)が大きいほど、扁桃体-海馬領域の体積が減少していたことが明らかにしました。
 厳しいストレスに曝された後の持続的で消えない不安と扁桃体-海馬領域の個体差の関連を示唆する成果です。
 本成果は、2024 年 6 月 13 日付で Biological Psychiatry: Global Open Science にオンライン掲載されました。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 応用脳科学研究分野 非常勤講師
新潟医療福祉大学 心理健康学科 助教 領家梨恵
(東北大学)Email : rie.ryoke.d1*tohoku.ac.jp
(新潟医療福祉大学)Email : rie-ryoke*nuhw.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
Email : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターとカーブスジャパン 〜「タンパク質の網羅解析によってサーキットトレーニングが認知機能、腸内細菌、心理指標に与える影響に関するメカニズムを包括的に解明する研究」を開始 〜(東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センター:曽我助教)

東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターとカーブスジャパン 〜「タンパク質の網羅解析によってサーキットトレーニングが認知機能、腸内細菌、心理指標に与える影響に関するメカニズムを包括的に解明する研究」を開始〜(東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センター:曽我助教)

【発表のポイント】
 本共同研究によって解明されることは以下の 3 点です。
1. 先行研究により、習慣的な運動が認知機能(脳の健康)、腸内細菌(腸の健康)、メンタルヘルス(心の健康)に有益な影響を与えることが示されていますが、そのメカニズムは未だ明らかになっていません。
これらの健康には、血中タンパク質解析によって判明する因子(炎症、免疫、加齢制御因子)が関与していると推測されます。そこで、本研究では約千種類にわたるタンパク質の解析により、運動の有益な効果を支持するメカニズムを明らかにする研究を行います。
2. 腸と脳には強い結びつき(腸脳相関)があると言われています。
本研究では、運動によって変化する腸内細菌が認知機能に与える影響について明らかにします。
3. 運動、タンパク質、腸内細菌、認知機能、心理指標といった包括的な指標から、それぞれの関連を明らかにすることで、加齢に伴う認知機能低下の抑制につながる関係性を明らかにします。

【研究の背景】
 高齢化の一途を辿る我が国を含めた先進国において、加齢に伴う認知機能低下の改善・予防を講じる必要性が年々高まっています。加齢に伴う認知機能低下として、65 歳以上になると約 4 人に 1 人が認知症または軽度認知障害を有しており、7 人に 1 人が認知症を有していると言われています。このような現状において、加齢に伴う認知機能低下の抑制に対しては、習慣的な運動が有効であるというエビデンスが蓄積されています。
 東北大学と株式会社カーブスジャパンは共同研究において、サーキットトレーニングによって「実行機能」や「記憶機能」が向上することを明らかにしています(次項【これまでの共同研究に関する成果】を参照)。
「実行機能」とは、定めた目標に対して思考や行動の制御を行う脳の高次機能です。 「記憶機能」は、我々の健全な生活を支えていくために必要となる脳機能であるとともに、加齢に伴う軽度認知障害や認知症において低下してしまう脳機能です。
 高齢化の一途を辿る我が国おいて、認知機能改善につながる取り組みは急務となっており、カーブスが提供している「筋力トレーニング」、「有酸素運動」、「ストレッチ」を組み合わせたサーキットトレーニングは、我が国が抱える高齢化に伴う問題の解決の糸口になると考えられます。
 これまで、様々な研究機関との共同研究によって、カーブスが提供しているサーキットトレーニングは、上述した認知機能改善に加えて、生活習慣病の予防(血圧・血糖値の低下傾向)、体脂肪量の減少、筋力増加、2 型糖尿病の予防効果、身体活動量の増加、心肺機能の向上、疼痛改善による日常生活機能の向上といった様々な効果が検証されています。

【目的】
 本研究の目的は、神経成長因子、炎症、免疫、加齢制御因子といった数千種類のタンパク質解析を新たに取り入れることで、サーキットトレーニングの効果を裏付けるメカニズムの究明に迫ることです。さらに、腸内細菌、認知機能、心理指標を加えて、包括的な観点からサーキットトレーニングの効果について検証していきます。

【研究概要】
 期間:2024年7月から2025年1月末を予定(運動介入は9月から12月を予定)
 対象者:40歳以上の地域住民(女性限定)
 運動内容:サーキットトレーニング(下図)
    ※筋力トレーニング(筋トレ)+有酸素運動(ステップボード)+ストレッチ

図 サーキットトレーニング

詳細(プレスリリース本文)

【本件に関するお問い合わせ先・ご取材のお申込】
株式会社カーブスジャパン 広報室
TEL:03-5418-9911
E-mail:pr*curves.co.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センター 助教 曽我啓史
TEL:022-717-8824
E-mail : keishi.soga.b4*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)