腫瘍組織や血液の DNA 損傷修復活性の測定法の開発 〜抗がん剤の有効性や遺伝性腫瘍の診断を可能に〜(腫瘍生物学分野:千葉教授 吉野助教)

腫瘍組織や血液の DNA 損傷修復活性の測定法の開発 〜抗がん剤の有効性や遺伝性腫瘍の診断を可能に〜(腫瘍生物学分野:千葉教授 吉野助教)

【発表のポイント】
⚫ 腫瘍組織や血液サンプルの DNA 損傷修復活性の測定を可能にする手法を開発しました。
⚫ 腫瘍組織の DNA 損傷修復活性は、PARP阻害薬(注1)や白金系抗がん薬(注2)の効果と高い相関を示すため、これらの効果の予測に有用と考えられます。
⚫ 血液由来のリンパ芽球様細胞での DNA 損傷修復活性の測定は、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(注3)の診断に応用できる可能性を示しました。

【概要】
DNA の二本鎖切断を修復する相同組換え修復(注4)に異常のある腫瘍には、PARP 阻害薬や白金系抗がん薬などが有効とされています。また、相同組換え修復に必要な分子の遺伝子異常は、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群を引き起こします。
東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 吉野 優樹助教、千葉 奈津子教授らは、これまでがん細胞での相同組換え修復能の測定法を開発し、その正確性を示してきました (Sci Rep 2019, Cancer Res Commun 2021)。
今回、同大学院医学系研究科 乳腺・内分泌外科学分野 大学院生の本成 登貴和氏、石田 孝宣教授らとの共同研究グループで、マウス腫瘍組織と血液由来のリンパ芽球様細胞の相同組換え修復活性を測定する方法の開発に成功しました。これらの方法を応用することで、がん治療薬の効果の予測や遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の診断が可能になることが示唆されました。
本研究成果は 2024 年 4 月 8 日、科学誌 Scientific Reports に掲載されました。

【用語説明】
注1. PARP 阻害薬:
Poly (ADP-ribose) polymerase 阻害薬の略。PARP は DNA を一本鎖切断などの DNA 損傷の修復に関与する。PARP を阻害するとこれらの DNA 損傷を修復出来なくなる。正常細胞ではこれらの DNA 損傷は相同組換え修復によって修復される。しかし、相同組換え修復が異常ながん細胞では、これらの DNA 損傷を修復することができず、細胞死を生じる。このような現象は合成致死と呼ばれ、PARP 阻害薬は相同組換え修復に異常をもつ乳がんや卵巣がんなどの治療に用いられている。
注2. 白金系抗がん薬:
シスプラチンなど、分子内にプラチナ原子を含む化合物であり、肺がん、大腸がん、食道がん、卵巣がんなど、様々ながんの標準治療に用いられる。
注3. 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群:
相同組換え修復因子の遺伝子異常により、乳がん、卵巣がんを発症する遺伝性腫瘍。BRCA1BRCA2 が主な原因遺伝子である。
注4. 相同組換え修復:
DNA 損傷修復機構の一つ。DNA 二本鎖切断や鎖間架橋などの重篤な DNA 損傷を修復する機構で、修復の際に正常な配列の DNA を鋳型として用いることから、正確な修復が可能とされている。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 助教 吉野 優樹
TEL:022-717-8478
E-mail:yuki.yoshino.c8*tohoku.ac.jp

東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 教授 千葉 奈津子
TEL:022-717-8477
E-mail:natsuko.chiba.c7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

「マウス肺 x ヒト細胞」ハイブリッド人工肺の移植術に世界で初めて成功 〜移植可能なバイオ人工臓器作成に弾み〜(呼吸器外科学分野:鈴木助教)

「マウス肺 x ヒト細胞」ハイブリッド人工肺の移植術に世界で初めて成功 〜移植可能なバイオ人工臓器作成に弾み〜(呼吸器外科学分野:鈴木助教)

【発表のポイント】
⚫ マウス肺から細胞を除去し、その中にヒト細胞を培養定着させることで、移植可能なハイブリッドバイオ人工肺のプロトタイプを開発しました。
⚫ ヒト細胞で再生したマウス肺をマウスに移植し、血流再開に世界で初めて成功しました。
⚫ 小型肺での臓器再生プラットフォームの確立により、大型なヒト臓器再生に必要な知見を迅速に得ることができるようになりました。

【概要】
移植可能なバイオ人工臓器の開発は、臓器移植医療における慢性的ドナー不足を根本的に解決する手段の1つです。人工臓器を作成する方法として、ドナーとなる動物臓器から動物細胞のみを取り除き、残った「肺の鋳型」にヒト培養細胞を注入して臓器を再生する方法が有力視されています。
東北大学加齢医学研究所の鈴木隆哉助教、岡田克典教授、同大学医学系研究科の冨山史子大学院生(現所属:宮城県立がんセンター)、同大学流体科学研究所の鈴木杏奈准教授、トロント大学トマス=ワデル教授の研究チームは、脱細胞化したマウス肺をヒト細胞で再生するプラットフォームを開発し、この分野で最も困難とされる肺毛細血管網再生とマウスへの移植実験に世界で初めて成功しました。これにより、非常に少ないリソースで大量の実験を同時に行うことができるプラットフォームが開発できたことにより、バイオ人工肺開発スピードの大幅な向上が期待されます。
本研究成果は 2024 年 4 月 4 日(木)日本時間 19 時に、科学誌 Scientific Reports に掲載されます。

図 脱細胞化・再細胞化法によるバイオ人工臓器の作成

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 呼吸器外科学分野 助教 鈴木隆哉
TEL:022-717-8521
E-mail:takaya.suzuki.b8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

可逆性小児急性肝不全の発症機序の解明 〜治療薬開発に向けた道筋〜(モドミクス医学分野:魏教授)

可逆性小児急性肝不全の発症機序の解明 〜治療薬開発に向けた道筋〜(モドミクス医学分野:魏教授)

【発表のポイント】
⚫ 可逆性小児急性肝不全の原因の一つはミトコンドリア酵素の MTU1 遺伝子の変異ですが、疾患発症の仕組みは不明でした。
⚫ MTU1 遺伝子の疾患関連変異の作用を検討し、変異がミトコンドリア tRNA 硫黄修飾(注1)の低下を引き起こすことで発症に寄与することを明らかにしました。また、MTU1 変異の種類によって硫黄修飾障害率が異なり、病態の重篤度に大きく影響することが分かりました。
⚫ MTU1 タンパク質を分解してしまう CLPP(注2)遺伝子の発現を抑制することで、ミトコンドリア tRNA 硫黄修飾の回復に成功しました。

【概要】
可逆性小児急性肝不全は、重度の肝機能低下を主症状とする希少小児疾患であり、出生後まもなく発症し死に至るケースも報告されています。可逆性小児肝不全の原因として MTU1 遺伝子の変異が知られています。一方、患者で報告されている MTU1 遺伝子の変異は非常に多様であり、それぞれの変異が疾患の発症に与える影響は不明でした。
東北大学加齢医学研究所の魏范研教授、Raja Norazireen Raja Ahmad 研究員らは、熊本大学大学院生命科学研究部富澤一仁教授、筑波大学計算科学研究センター重田育照教授らとの共同研究により、可逆性小児肝不全患者で報告されている 17 種類の MTU1 遺伝子変異の作用を明らかにしました。これらの変異は MTU1 の酵素活性とタンパク量の低下を引き起こすことで、MTU1 によるミトコンドリア tRNA 硫黄修飾を大きく障害し、ミトコンドリアでのタンパク質翻訳とエネルギー代謝の低下原因となることがわかりました。
また、MTU1 タンパク量低下の原因は、CLPP による分解であることを突き止めました。さらに、CLPP の機能抑制が MTU1 タンパク量の増加を介して、ミトコンドリア tRNA 硫黄修飾の回復に成功し、MTU1 の分解抑制が可逆性小児肝不全の治療につながる可能性が示されました。
本研究結果は2023年12月19日付の欧科学誌 Nucleic Acids Research に掲載されました。

図 MTU1 病原性変異によるミトコンドリア機能障害と疾患発症の分子機構

【用語説明】
注1. tRNA:
80 塩基前後の長さを有する小分子 RNA であり、末端にアミノ酸を結合している。tRNA は mRNA と結合し遺伝子暗号を解読することで、mRNA の設計図通りにタンパク質が合成される。
注2. CLPP:
Endopeptidase Clp の略であり、ミトコンドリアの内腔に局在するエンドペプチダーゼである。ミトコンドリア内腔において様々なタンパク質を分解し、タンパク質の恒常性維持に必要である。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 モドミクス医学分野 教授 魏范研
TEL:022-717-8562
E-mail:fanyan.wei.d3*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

わさび由来成分の健康成分であるヘキサラファンを 12 週間毎日摂取すると高齢者の記憶機能が改善!〜健康な高齢者を対象とした二重盲検無作為対照試験で検証〜(人間環境大学総合心理学部:野内類教授(研究当時:東北大学加齢医学研究所(准教授))

わさび由来成分の健康成分であるヘキサラファンを 12 週間毎日摂取すると高齢者の記憶機能が改善! 〜健康な高齢者を対象とした二重盲検無作為比較対照試験で検証〜(人間環境大学総合心理学部:野内類教授(研究当時:東北大学加齢医学研究所(准教授))

【概要】
加齢による記憶力を中心とする認知機能の低下は、高齢者の生活の質を低下させる要因の一つです。人間環境大学の野内類教授(研究当時:東北大学加齢医学研究所(准教授))と東北大学の川島隆太教授を中心とする研究グループと金印株式会社は、本わさびに含まれる健康成分であるヘキサラファン(6-MSITC )が、健康な高齢者の認知機能に及ぼす効果を、無作為比較対照試験を用いて検証しました。その結果、ヘキサラファンを含むサプリメントを 12 週間毎日摂取した群(ヘキサラファン群)は、ヘキサラファンが一切含まれていないプラセボサプリメントを摂取した群(プラセボ群)よりも、記憶力(エピソード記憶と作業記憶)が向上することが明らかになりました。
本研究の成果は、2023 年 10 月 30 日にオンライン雑誌の Nutrients 誌に掲載されました。

詳細は次をご覧ください。
詳細

【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
人間環境大学総合心理学部 教授 野内 類
E-mail:r-nouchi*uhe.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

脳内の細胞活動変化を網羅的に解析する方法を提案 〜一時的な睡眠不足による神経活動変化を検証〜(統合生理学研究分野:佐藤准教授)

脳内の細胞活動変化を網羅的に解析する方法を提案 〜一時的な睡眠不足による神経活動変化を検証〜(統合生理学研究分野:佐藤准教授)

【発表のポイント】
⚫ 様々な身体の不具合につながる一時的な睡眠不足(注1)で起こる脳神経活動の変化を網羅的に解析しました。
⚫ 一時的な睡眠不足によりもたらされる脳領域間の結合性(注2)の変化を世界で初めて定量的に示しました。
⚫ 遺伝子改変モデルマウスと半自動脳アトラスレジストレーションツール(注3)を組み合わせることで、心理的な偏りのない網羅的な細胞活動変化の解析を可能にする方法を提案しました。

【概要】
睡眠不足は、私たちの日常生活に悪影響を及ぼしうる大きな社会問題となっています。加齢医学研究所統合生理学研究分野の佐藤亜希子准教授(兼務:国立長寿医療研究センター・副部長)、漆畑拓弥助教、国立長寿医療研究センターの後藤三緒研究補助員、壁谷慶子研究補助員、辻将吾研究員らは、マウスを用いて、脳内の細胞活動変化を網羅的に解析する新たな方法を提案しました。そしてこの方法を用いることで、一時的な睡眠不足による脳内の神経活動変化と領域間の結合性変化を定量的に検出できることを示しました。
本研究は至学館大学栄養科学科の清塚麻衣学部生、丸山栞穂学部生、栄養科学科/健康科学研究所の多田敬典教授との共同研究により実施されました。
本研究成果は、10 月 19 日に国際学術誌 Frontiers in Neuroscience に発表されました。

図 脳内の活動化神経を網羅的に解析する方法の流れ。
SD 中に活性化した神経を標識し、脳マルチスライスの画像を取得(Step1)。活性化神経の xy 座標(Step2-1)と脳領域(Step2-2)の決定。各脳領域における活性化神経数の計測(Step3)。

【用語説明】
注1. 睡眠不足:
睡眠絶対量が不足した状態。
注2. 脳領域間の結合性:
神経活動の同期度合いから脳領域間の相互作用の強さを規定する指標。
注3. 半自動脳アトラスレジストレーションツール:
既に領域が定義された脳地図(脳アトラス)画像と脳スライス画像を半自動的にアライメントすることで、脳スライス画像の全ての脳領域を決定させ、定量評価を可能とするツール。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 統合生理学研究分野 准教授 佐藤 亜希子
E-mail:akiko.satoh.b7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

大動脈弁狭窄症に伴う消化管出血がカテーテル治療で改善! 〜心臓と消化管の関連が明らかに〜(基礎加齢研究分野:堀内教授)

大動脈弁狭窄症に伴う消化管出血がカテーテル治療で改善! 〜心臓と消化管の関連が明らかに 〜(基礎加齢研究分野:堀内教授)

【本研究成果のポイント】
⚫ 高齢化社会で増加している大動脈弁狭窄症では消化管出血を合併することがしばしばあり、ハイド症候群と呼ばれています。大動脈弁の狭窄箇所で血流が速くなり、止血因子(フォンウィルブランド因子)が過度に分解されることによる止血異常症と、消化管粘膜に発生する出血しやすい異常血管(消化管血管異形成)の出現が消化管出血の原因と考えられています。特に後者に関しては世界的にも研究が進んでおらず実態が不明でした。
⚫ 大動脈弁狭窄症に伴う消化管出血の実態を明らかにするため、大動脈弁のカテーテル治療が予定されている貧血のある重症大動脈弁狭窄症の患者 50 名に内視鏡検査を行い、臨床経過とともに解析しました。
⚫ (1)多数の血管異形成が消化管に存在した(2)10%で出血を認めた(3)心臓を治療すると消化管の出血が改善しました。
⚫ 循環器疾患の治療と消化管粘膜病変が密接に関連しているという驚くべき知見です。

【概要】
京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器内科学 後期専攻医 彌重匡輝、同 准教授 全 完、消化器内科学 助教 井上 健、東北大学 加齢医学研究所 基礎加齢研究分野 教授 堀内久徳、同 大学院生 道満剛之ら研究グループは、貧血のある重症大動脈弁狭窄症患者のうち 94%に見られる消化管出血性病変に対して大動脈弁のカテーテル治療を行うと、消化管出血性病変の数や大きさが改善することを明らかにしました。本件に関する論文が、医学雑誌『New England Journal of Medicine』に 2023 年 10 月 19 日付けで掲載されることとなりましたのでお知らせします。
本研究は、大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療が重症大動脈弁狭窄症患者の消化管血管異形成を消退させることを初めて明らかにしました。循環器疾患の治療と消化管粘膜病変が密接に関連している驚くべき知見でした。本研究成果をもとに、今後は大動脈弁狭窄症に伴う消化管血管異形成の形成・消退メカニズムが解明され、治療の改善に繋がることが期待されます。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 基礎加齢研究分野 教授 堀内 久徳
E-mail:hisanori.horiuchi.e8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

世界をさきがけるトリオ脳科学 個性を創造する「世代間伝達」の仕組みの探究を開始(スマート・エイジング学際重点研究センター:松平泉助教)

世界をさきがけるトリオ脳科学 個性を創造する「世代間伝達」の仕組みの探究を開始(スマート・エイジング学際重点研究センター:松平泉助教)

2023年9月28日『Frontiers in Psychiatry』誌に論文掲載

「親子で性格が似ている」「親も子もうつ病になった」など、考え方の特徴や精神的な不調が、まるで連鎖するように親子で共通して見られることがあります。また、親が幼少期に虐待などの辛い体験をした場合、その影響は次世代の脳の発達や精神状態にも現れると言われています。親の性格や経験が次世代へ引き継がれているとも言うべきこれらの現象は「世代間伝達」と呼ばれています。

世代間伝達はどのようにして起こるのか、誰にでも起こるのか、ヒトの精神的健康における世代間伝達の役割とは何なのか、明確な答えは未だ得られていません。そこで、東北大学学際科学フロンティア研究所の松平泉助教、同大学医学系研究科の山口涼大学院生(日本学術振興会特別研究員)、同大学スマート・エイジング学際重点研究センターの瀧靖之教授の研究グループは、父・母・子(=親子トリオ)を対象とした脳科学の研究プロジェクト『家族の脳科学(英語名:Transmit Radiant Individuality to Offspring [TRIO] study)』を開始しました。この研究では、世代間伝達とヒトの個性の関係性の深淵な理解を目的として、親子3名の脳画像・遺伝子・生育環境・性格・認知能力、などのデータを取得し、相互の関係性を詳細に分析します。

本研究は2021年にスタートし、地域にお住まいの皆様のご協力のもと、これまでに約200トリオのデータ取得を行いました。本研究の目的、データ取得の方法、将来展望をまとめたプロトコル論文が、2023年9月28日にFrontiers in Psychiatry誌に掲載されました。今後もサンプル数を拡大しながら研究を展開し、ヒトの精神的健康の維持に貢献する新たな知見の創出を目指します。

図:TRIO studyの概要。(左上)研究参加者募集用のプロモーション画像。(左下)世代間伝達をキーワードとして、ヒトの個性が形成される仕組みを探究することがTRIO studyの目的です。(右上)研究参加者の皆様から脳画像を中心に遺伝子や生育環境などあらゆる情報を取得させて頂いています。(右下)思春期以上の子とその父母のトリオを対象としている点が、国内外の他のコホートにはないTRIO studyの特色です。

【論文情報】
タイトル:Transmit Radiant Individuality to Offspring (TRIO) study: Investigating intergenerational transmission effects on brain development
著者: Izumi Matsudaira*†, Ryo Yamaguchi†, and Yasuyuki Taki (†共同第一著者)
*責任著者:東北大学学際科学フロンティア研究所 助教 松平泉
掲載誌:Frontiers in Psychiatry
DOI: 10.3389/fpsyt.2023.1150973
URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyt.2023.1150973/full

【お問い合わせ先】
スマート・エイジング学際重点研究センター 助教 松平 泉
E-mail:izumi.matsudaira.e4*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

妊娠期に糖質が欠乏すると胎仔マウスの生殖細胞に異常が出る 〜生殖細胞形成における糖質代謝の役割〜(附属医用細胞資源センター:松居教授)

妊娠期に糖質が欠乏すると胎仔マウスの生殖細胞に異常が出る 〜生殖細胞形成における糖質代謝の役割〜(附属医用細胞資源センター:松居教授)

【発表のポイント】
⚫ 糖質の代謝は胚発生(注1) の初期に起こる生殖細胞の形成と、その後の精子と卵子への分化に必要です。
⚫ 妊娠マウスにおける糖質の欠乏が胎仔の生殖細胞の形成と分化を阻害することを明らかにしました。
⚫ 子の生殖能力に影響する妊娠期の栄養環境改善のヒントとなり得ます。

【概要】
妊娠期の栄養状態が、生まれた子の健康に影響することが知られていますが、胎児期に起こる生殖細胞の形成にどのように影響するかは分かっていません。
東北大学加齢医学研究所附属医用細胞資源センター 松居靖久(まついやすひさ)教授、林陽平(はやしようへい)助教の研究グループは、滋賀医科大学と共同で、培養下で多能性幹細胞(注2) から生殖細胞を誘導する系を用いて糖質(グルコース)の重要性を調べました。その結果、生殖細胞の形成においては、 グルコースが特定の代謝経路を介してタンパク質の糖鎖修飾(注3) の基質として働くことが重要であることを突き止めました。
また、妊娠マウスに糖質を含まない給餌を行うと、胎仔のタンパク質の糖鎖修飾が抑制され、生殖細胞形成と分化が阻害されることを明らかにしました。これらの結果は、妊娠期の糖質欠乏が、子の生殖機能に影響を与える可能性を示唆するものです。
本研究成果は10 月16日、生命科学の専門誌 EMBO Reports 誌電子版に掲載されました。

図 本研究の概要:生殖細胞形成における糖質代謝の役割

【用語説明】

注1. 胚発生:
多細胞生物の受精卵が細胞分裂を繰り返し成体になる過程。
注2. 多能性幹細胞:
体を構成するほとんどすべての細胞に分化できる幹細胞。
注3. 糖鎖修飾:
アミノ酸残基に糖鎖を付加する、タンパク質の主要な翻訳後修飾の一つ。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 附属医用細胞資源センター
教授 松居 靖久
E-mail:yasuhisa.matsui.d3*tohoku.ac.jp
助教 林 陽平
E-mail:yohei.hayashi.e2*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

東北大学 × NTTコニュニケーションズ × 仙台市
「SENSINプロジェクト」キックオフ発表会を開催します

東北大学 × NTTコミュニケーションズ × 仙台市
「SENSINプロジェクト」キックオフ発表会を開催します

 国は、デジタル田園都市国家構想の実現に向け、デジタル実装の前提となる取り組みとして、デジタル技術に慣れていない人や、これらを自らは利用しない人も含め、デジタル化の恩恵をあらゆる人が享受できる環境の整備を進めています。
 仙台市においても、仙台市デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画における施策の一つとして「誰にも優しいデジタル化」を掲げ、取り組みが進められています。
 このたび、情報通信を用いた高齢者の自立した生活の延伸について研究を進めている東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターと協力し、東北大学・NTTコミュニケーションズ株式会社・仙台市との共同事業として、公益財団法人長寿科学振興財団の助成事業「高齢社会課題解決研究および社会実装活動への助成」に採択され、高齢者のデジタルリテラシーを向上させるエコシステムの開発と実装を目指す「SENSINプロジェクト」に取り組むこととしました。
 プロジェクトの実施に先立ち、キックオフ発表会を開催します。

※ 高齢社会課題解決研究および社会実装活動助成
 公益財団法人長寿科学振興財団が、Googleの慈善事業部門であるGoogle.orgの支援を受け、高齢者のデジタルデバイド解消等に取り組む大学、研究機関、自治体等を支援する事業。
 東北大学がNTTコミュニケーションズ株式会社・仙台市との共同事業として、「日本の高齢者のデジタルリテラシーを向上させるエコシステム開発と実装」の課題解決テーマに応募し、採択された。助成金額(事業費)は5千万円。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<事業全般に関すること>
国立大学法人東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センター
電話:022-717-8492
Eメール:sensin.sarc*grp.tohoku.ac.jp

<参加申込に関すること>
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社東北支社
電話:050-3813-9580
Eメール:comtohoku-sol3G2T*ntt.com

<キックオフ発表会に関すること>
仙台市まちづくり政策局 デジタル戦略推進部まちのデジタル推進課
電話:022-214-1248
Eメール:mac001735*city.sendai.jp
(*を@に置き換えてください)

免疫細胞の炎症制御「硫黄代謝」がカギ 〜マクロファージの硫黄代謝を標的とした創薬にむけて〜(遺伝子発現制御分野:本橋教授)

免疫細胞の炎症制御「硫黄代謝」がカギ 〜マクロファージの硫黄代謝を標的とした創薬にむけて〜(遺伝子発現制御分野:本橋教授)

【発表のポイント】
⚫ 炎症を制御する細胞であるマクロファージにおいて、炎症の終結に必要な代謝パスウェイ(注1)を同定しました。
⚫ 炎症刺激により活性化したマクロファージは、含硫アミノ酸であるシスチンを細胞外から取り込み、超硫黄分子(注2)を産生することで、炎症反応を終結させることを明らかにしました。

【概要】
マクロファージは免疫細胞の一種であり、病原体の感染や周りの細胞の損傷等により活性化し、病原体の排除や組織の修復を行います。しかし、過剰に活性化すると新型コロナ感染症で見られるような重症肺炎などの原因となる他、炎症が長引くと慢性閉塞性肺疾患などの慢性炎症性疾患、関節リウマチなどの自己免疫疾患ほか、さまざまな病気を引き起こします。
私たちが持っている細胞は本来、炎症反応を収束させ、過剰な炎症反応が起こることを防ぐメカニズムを兼ね備えていますが、マクロファージにおいて、その制御に関わる因子の全貌は明らかにされていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科の武田遥奈大学院生、加齢医学研究所環境ストレス老化研究センターの村上昌平助教、加齢医学研究所遺伝子発現制御分野の関根弘樹講師、本橋ほづみ教授らの研究グループは、マクロファージによる炎症反応の収束には「硫黄代謝」の活性化が鍵となることを明らかにしました。本研究では、マクロファージが取り込んだシスチンとその還元型であるシステインを基質として超硫黄分子が合成され、過剰な炎症応答を収束させるネガティブフィードバック機構が形成されることを明らかにしました。本研究成果は、マクロファージが本来持っている超硫黄分子による炎症抑制機構を強化することが、重症感染症や慢性炎症、自己免疫疾患などの創薬標的となる可能性を示唆しています。
本成果は、8月1日に欧州の学術誌 Redox Biolog 誌に掲載されました。
なお、本成果は熊本大学大学院生命科学研究部微生物学講座・澤智裕教授、九州大学生体防御医学研究所附属高深度オミクスサイエンスセンター・馬場健史教授、新潟大学医学部保健学科・佐藤英世教授、東北大学大学院医学系研究科環境医学分野・赤池孝章教授との共同研究により得られたものです。

【用語説明】
注1. 代謝パスウェイ:
代謝物が複数のタンパク質の働きによって変化していく一連の経路。
注2. 超硫黄分子:
硫黄原子が直列に連結した構造(硫黄カテネーション)を有する分子の総称。システインパースルフィドやグルタチオンパースルフィドなどがある。

詳細(プレスリリース本文)

【お問い合わせ先】
<本研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 遺伝子発現制御分野 教授 本橋 ほづみ
E-mail:hozumi.motohashi.a7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学法人東北大学加齢医学研究所 広報情報室
TEL:022-717-8443
E-mail : ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)