遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因となる BRCA1 の新たながん抑制能を発見 -核内の DNA 損傷シグナルを核の外に伝達して細胞死へ-(腫瘍生物学分野:千葉教授)
【発表のポイント】
⚫ 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因遺伝子 BRCA1 注1 の、DNA 損傷シグナルを中心体 注2 に伝達するがん抑制能を明らかにしました。
⚫ DNA 損傷後にリン酸化された BRCA1 が核外に移動して、中心体の数を増加させることを明らかにしました。
⚫ DNA 損傷後に BRCA1 が、分裂期キナーゼ(酵素)である Aurora A 注3 の中心体局在を増加させ、別の分裂期キナーゼ PLK1 注4 を活性化して、 中心体複製を起こすことを明らかにしました。
【概要】
がん抑制遺伝子 BRCA1 は、その遺伝子変異によって、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群を引き起こします。東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 教授 千葉 奈津子、同大学院医学系研究科 大学院生 斉 匯成(さい かいせい)(研究当時、 現順天堂大学)、同大学院生命科学研究科 大学院生 菊地 めぐみ(研究当時)、 東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野 助教 吉野 優樹、東京工科大学 応用 生物学部 教授 岩渕 徳郎らの研究グループは、その遺伝子産物であるタンパク質 BRCA1 が、DNA 損傷が起こると ATM にリン酸化されて核外に移動し、分裂期キナーゼである Aurora A の中心体局在を増加させることで PLK1 を活性化し、中心体数を増加させることを明らかにしました。これは BRCA1 の新たながん抑制能の発見です。
本研究成果は2022年9月9日、Cancer Science 誌に掲載されました。
図 DNA 損傷後に、BRCA1 が ATM にリン酸化されて、核外に移動して BRCA1 の中心体局在が亢進し、Aurora A の中心体局在を促進する。Aurora A が PLK1 をリン酸化して中心小体解離を引き起こし、それにより中心小体の過剰複製が起こる。それにより、中心体数が増加する。中心体数が増加した多くの細胞は分裂期細胞死を起こす。
【用語説明】
注1:BRCA1 : BRCA2 とともに、遺伝子変異により遺伝性乳がん・卵巣がん症候群をひきおこすがん抑制遺伝子。
注2:中心体 : 核の近くの細胞質に存在する細胞内小器官であり、中心小体と、その周囲の中心小体周辺物質(pericentriolar material; PCM)からなる。中心小体は母中心小体と、その側壁に結合する娘中心小体からなり、L 字型の構造をとる。中心小体周辺物質にはγ-チュブリン環が豊富に存在し、細胞骨格の一つである微小管の形成起点として働く。細胞分裂期には中心体から微小管が伸長し、紡錘体を形成する。
注3:Aurora A : 分裂期キナーゼの 1 つで、中心体、紡錘体極に局在し、細胞分裂に進行に重要な役割を果たす。PLK1 をリン酸化して活性化する。
注4:PLK1 : 分裂期キナーゼの 1 つで、中心体、紡錘体極などに局在し、細胞分裂に進行に重要な役割を果たす。中心体では、中心小体の複製に重要な中心小体解離を引き起こす。
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 腫瘍生物学分野
教授 千葉 奈津子
電話 022-717-8477
E-mail natsuko.chiba.c7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所広報情報室
電話番号:022-717-8443
E-mail ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)