限界を突破し皮下のループ状毛細血管を世界で初めて可視化
光音響顕微鏡の高精度制御により高画質実現

【研究のポイント】
⚫ ループ状毛細血管注1など、不透明な皮下の毛細血管については明瞭な画像撮影が困難だった。
⚫ 微細加工技術を利用したMEMS注2ミラーの高精度制御によって、光音響イメージング注3を使用した新しい光音響顕微鏡注4を開発した。
⚫ 本研究は、毛細血管の細動脈・細静脈を明瞭に区別したヘアピンカーブ構造の高画質画像を撮影することを可能とし、毛細血管による皮膚の評価に直ちに応用可能。

【研究概要】
毛細血管は皮膚近くではループ状の構造を取っており、血流に障害が起こるとループ状構造が乱れたり消失したりすることから、病気の診断に利用されています。しかし、普通の皮膚は不透明なため、皮下の毛細血管を明瞭に観察することはこれまでできませんでした。近年、近赤外線を利用した光干渉断層計によって、皮下の血管網の構造を詳細に観察することができるようになりましたが、解像度の限界により、ループ状構造までの観察は困難でした。一方、光音響イメージングを使用した光音響顕微鏡は、非常に高い解像度を実現でき、新しい血管観察法として開発が進められています。東北大学大学院医工学研究科新楯諒大学院生(研究当時、現・富士フイルム)、西條芳文教授らの研究グループは、韓国浦項大学の Chulhong Kim 教授らのグループとの共同開発で MEMS スキャンを用いた光音響顕微鏡を開発し、そのスキャンをさらに高精度制御することで高画質画像を得ることに成功しました。特に不透明な皮下組織のループ状毛細血管のヘアピンカーブ構造における細動脈・細静脈を明瞭に区別した画像撮影は世界初です。本研究成果は、毛細血管による皮膚の評価に直ちに応用可能で、開発中の内視鏡との組み合わせによりがん組織の血管構造などにも応用可能な技術です。

本研究成果は、2022年6月2日に国際科学誌Scientific Reports(電子版)に掲載されました。

図1 光音響顕微鏡によるループ状毛細血管のイメージング

【用語説明】
注1:ループ状毛細血管:大動脈は左心室から起始し各臓器の動脈に分岐し、さらに末梢に行くにしたがって細かく枝分かれし、最後は直径100ミクロンくらいの細動脈に至ります。細動脈は細静脈に連なり、静脈が合流していき上大静脈・下大静脈となり右心房に流れ込みます。毛細血管網は細動脈から細静脈に連なるネットワークとして図示されることが多いですが、皮膚においては細動脈がヘアピンカーブの入口、細静脈が出口に相当する構造を取っています。
注2:MEMS:MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は微小電子機械システムのことで、アクチュエータや電子回路を一つのシリコン基板などの上に微細加工技術によって集積化したデバイスを指します。MEMSミラーは単結晶シリコン上に金属のコイル、ミラー、磁石を配置した、低電圧で高速走査が可能なデバイスです。
注3:光音響イメージング:物質にナノ秒レベルの強力パルス光を照射すると、生体が検知できないほどの短時間に熱膨張が起き、音響波が発生します。光音響イメージングはこの音響波により可視化する技術で、緑色レーザ光が赤血球に吸収されるため、主に血管の可視化に用いられています。
注4:光音響顕微鏡:光音響イメージングのうち、顕微鏡レベルの細かい構造まで可視化可能な装置を光音響顕微鏡と言います。通常の光学顕微鏡と異なり切片を作成する必要がないので、生体内組織のミクロレベルの観察が可能です。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学大学院医工学研究科医用イメージング分野
教授 西條 芳文(さいじょう よしふみ)
E-mail:saijo*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)