DNA2本鎖切断の修復にはたらく新たな分子を発見
知的障害原因遺伝子CHAMP1が抗がん剤耐性の克服に関係する可能性

【発表のポイント】
⚫知的障害の原因遺伝子の1つであるCHAMP1が、DNA2本鎖切断の相同組換えによる修復にはたらくことを明らかにしました。
⚫CHAMP1の発現の抑制が、抗がん剤の一種であるPARP阻害剤に対する耐性の克服につながる可能性が示されました。

【概要】
DNA2本鎖切断は最も重大なDNA損傷であり、これを修復する機構の異常は、がん化と関連すると共に、抗がん剤治療の標的にもなっています。東北大学加齢医学研究所・分子腫瘍学研究分野の田中耕三教授らの研究グループは、知的障害の原因遺伝子の1つであるCHAMP1が、DNA2本鎖切断の相同組換えによる修復にはたらくことを明らかにしました。相同組換え修復に異常があるがんに対して有効なPARP阻害剤注1に耐性を示す細胞で、CHAMP1の発現を抑制するとPARP阻害剤の効果が回復することが判明し、薬剤耐性の克服につながる可能性が示されました。

本研究成果は、4月7日に学術誌Oncogene誌に発表されました。

図  DNA2本鎖切断の2つの修復経路
DNA2本鎖切断は、非相同末端結合 (NHEJ) 注2・相同組換え (HR) 注3によって修復される。53BP1が非相同末端結合を促進するのに対して、CHAMP1はPOGZと共に、DNA end resection注4にはたらくことによって相同組換えを促進する。

【用語説明】
注1 PARP阻害剤: タンパク質にPoly(ADP-ribose)を重合させる活性を持ち、DNA1本鎖切断の修復などにはたらくPARPの阻害剤。

注2 非相同末端結合 (Non-homologous end-joining; NHEJ): DNA2本鎖切断部位の末端同士が結合することによる修復機構。DNA断端において、塩基の欠失や挿入などの変異が生じやすい。

注3 相同組換え (Homologous recombination: HR): DNA2本鎖切断による損傷部位を、相同な配列(DNA複製によって生じた姉妹染色分体など)を鋳型として正確に修復する機構。

注4 DNA end resection: DNA2本鎖切断部位の5’末端のDNAを分解して3’末端の1本鎖DNAを露出させるはたらき。これがきっかけとなって相同組換え修復が進行する。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 
分子腫瘍学研究分野 教授 田中 耕三
電話 022-717-8491
E-mail kozo.tanaka.d2*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)