田中 耕三
Kozo TANAKA
 

Patient Advocacy Foundations

草の根研究推進活動
 



昨年10月に、フロリダで行われたCHAMP1 Research Foundationの第2回カンファレンスに出席した。CHAMP1とは、私たちが2011年に初めて報告し、その後神経発達障害の原因であることが判明した遺伝子である。CHAMP1 Research Foundationは、CHAMP1に変異を持つお子さんの家族が設立した団体で、私はこの団体の創立時よりAdvisory Boardとして定期的にオンラインのミーティングに参加している。この団体の設立者であるJeffとはよくメールでやり取りしており、その活動もよく把握しているつもりだったが、自分が見つけた遺伝子に変異を持つお子さんやその家族と直に対面した場面は、科学者として人間として心動かされる瞬間だった。彼らはインターネットを通じてすでに140名近くのCHAMP1に変異を持つお子さんの情報を収集し、その変異の詳細や症状などを把握しており、その情報量は論文として発表されている情報をはるかに上回る。それだけでなく、このようなカンファレンスの機会などを通じて、本人や家族に血液や皮膚などのサンプル提供を呼びかけ、そこから得られたリンパ球・線維芽細胞・iPS細胞などを、研究機関を通じて研究者に提供している。このカンファレンスに参加した研究者は、私をはじめ数人を除いては、この団体に呼びかけられてCHAMP1の研究を始めた研究者であり、この団体がなければCHAMP1の研究者がここまで増えたとは思えない。神経発達障害にはたくさんの遺伝子が関与しており、各遺伝子の変異が全体に占める割合はCHAMP1同様小さく、研究が進みにくい状況にある。しかしCHAMP1同様、他の多くの遺伝子変異についても、変異を持つお子さんの家族による団体が設立されており、さらにその団体同士が連携し合うことで、研究の推進に大きな役割を果たしている。研究者にとっても、症例数の少ない遺伝子変異の情報やサンプルがまとめて手に入るメリットは大きい。そして何より、自分の子どもたちのために何かできることはないかと懸命に活動する家族の姿勢には、研究者としてのモチベーションや使命感をかき立てられずにはいられない。一般市民と研究者がお互いの垣根を越えて、共に問題解決に邁進するというのは、新たなサイエンスのスタイルかもしれない。

名 前:田中 耕三(たなか こうぞう)

出身地:鹿児島県
趣 味:犬の散歩・将棋観戦・スポーツ観戦
分野名:分子腫瘍学研究分野