田中 耕三
Kozo TANAKA
 

11年越しの論文

多くの人に助けられて
 



以前(第64回)の本ブログで、ちょっとした勘違いから見つけたCHAMP1(当初はCAMPと呼んでいた)というタンパク質について紹介した。最初の論文を発表した2011年、これは大震災の年であり、私の研究室(分子腫瘍学研究分野)が誕生した年でもあるが、せっかく新しいタンパク質を見つけたのだからと、理研にノックアウトマウスの作成を依頼した。それから11年経って、ようやくCHAMP1ノックアウトマウスの論文を発表することができた。最初は、ホモノックアウトマウスが生後数日で死亡するということと、生まれた時に少し小さいという以外の異常は見られなかった。2015年になって、大規模ゲノム解析の結果、CHAMP1が知的障害の原因遺伝子であるということが報告され、そこから専門外の神経学的解析が始まった。大人になるまで生きていて、ヒトの知的障害のモデルと考えられるヘテロノックアウトマウスは、一見何の異常もなかったが(マウスが飼育室で生きていくのに知的障害は大きな問題ではないのかもしれない)、藤田医科大学の宮川先生の研究室で行動実験を行うと、軽度ではあるが行動異常が見られることがわかった。脳の構造にも大きな異常はなかったが、医学系研究科の大隅先生の研究室で、CHAMP1の発現を抑制すると脳構築が生じる胎生期に神経細胞分化や神経細胞移動の遅れが見られることがわかった。この他にも多くの人の助けがなければ、この論文は完成しなかった。専門外の神経科学の研究を続けているのには、私がアドバイザリーボードを務める、CHAMP1に変異を持つ子どもの家族団体CHAMP1 Research Foundationの代表Jeff D’Angeloとの交流が、大きなモチベーションになっている。11年前、自分が神経科学の論文を書くとは思ってもいなかった。今は、10月にフロリダで行われるCHAMP1 Research Foundationのミーティングで、Jeffと対面するのを楽しみにしている。

名 前:田中 耕三(たなか こうぞう)

出身地:鹿児島県
趣 味:犬の散歩
分野名:分子腫瘍学研究分野