舟橋 淳一
Junichi Funahashi
 

旅する人の心理


 



 新型コロナウイルス感染症の広がりは、第5波のあとで小康状態を保っているようです。とは言え、いまだに収束への道は見通せない状況で、おそらく相当な数の人々がストレスを感じているのではと想像します。飲酒を伴う会合の制限もさることながら、旅行の制限もなかなか辛いものがあります。全国各地から大勢が一堂に会する学術集会も開きづらいですし、一般生活でも、離れて暮らす親族と会えないというのは寂しいものです。学術集会はオンライン会議で、遠くの親戚とはビデオ通話でと、それぞれに代替手段はあるとはいうものの、やはり実際に会って話すのには遠く及ばないでしょう。さらに言えば「旅の楽しみ」も奪われてしまいました。学術集会は、様々な新たな知見に接する楽しみはもちろんですが、行ったことのない地方都市を訪れることができることも、私にとっては参加の大きなモチベーションでした。

 ところで、なぜ人は旅ができないとストレスを感じるのでしょうか。その理由の一つは、好奇心が満たされないからなのではと思います。しかし、好奇心は実はなかなか厄介な欲求です。追求の仕方によっては命を失うリスク(例えば旅行に行って新型コロナウイルス感染症にかかり重症化する)さえあります。ところがこの危険な好奇心というものは、不思議なことに自然淘汰をすり抜けて、人類だけでなく、地球上の多くの生物に保存されているようです。私は以前に実験動物としてゼブラフィッシュを飼っていたことがありますが、水槽に指を近づけて動かしていると、彼らが近づいてくることがあります。たまたまこちらに食い気が無いから良かったものの、もし捕食者だったら一巻の終わりです。こんな危険な性質が淘汰されなかったということは、たとえ個体の命を奪うリスクがあっても、種の保存には何らかの利点があるはずです。それは或いは、命を繋いでいくためのより多くの選択肢/可能性を用意できるように働くから、なのかもしれません。考えてみれば、科学の原動力は好奇心です。そして実際に、科学の発展は人類に様々な可能性を提供してきました。願わくば、新型コロナウイルス感染症に対しても、科学の力が早期収束への道筋を示してくれますように。

(この文章は、とあるコミュニティ向けの会誌に寄稿したものを一部改変して投稿しました。)

名 前:舟橋 淳一(ふなはし じゅんいち)

出身地:愛知県
趣味:機械いじり・日曜大工・ネット検索
分野名:呼吸器外科学分野