瀧 靖之
Yasuyuki TAKI
 

回想脳

古きを温め新しきを知る
 



 私はノスタルジーで生きている。一日の思考時間の8割ぐらいを過去を思い出しているかもしれない。それも今に始まったことではなく、高校生の時に、既に小学校の生活とか校舎とか思い出して懐かしい気持ちになりながら大学受験勉強をしていた。東北大に入って仙台に来てからも、旭川の家とか、小中高の通学路とか、中学生の時に聞いていたロックとか、家族とか昔の友人とか常に懐かしいことばかり考えていた。

 そして、今は更に輪をかけていつもノスタルジーに浸っている。書斎に置いている本は学生時代に読んでいた本ばかりだし、小学校の時に読んでいた図鑑とか蝶の専門書もいまだに手の届くところに置いているし、卓上時計も中学校の時から持っていたものである。車に至っては、学生時代に乗っていた32年前の車を、同色同グレードの素晴らしい程度のものを5年かけて探し出し買ってしまった。運転するといつも、医学部学生時代、医師国家試験合格の時、そして結婚など様々なライフイベントを思い出す。

 そこでふと気が付いたことがあった。昔を懐かしんでいると、何故だか本当に心が落ち着く、そして、ストレスとか困難があっても心がリラックスして臨める。嫌な思い出もなんだか懐かしい思い出に変わっていく。この甘酸っぱい気持ちはただものではないと思い始めて色々論文を調べると、なんと、回想することは、幸福感、社会的つながりを強め、人生の充足感も高めるとか、回想に関わる脳領域は、未来を想像することに関わる脳領域と共通な基盤がある、つまり、過去を回想することは、未来への詳細な計画を立てることにも繋がり得るというような研究結果が色々あることが分かった。まさに温故知新である。確かに、回想というのは、単に過去の景色とか車とか本とか音楽を思い出すだけでなく、そこから当時一緒にいた家族とか友人とか、結局は人に繋がるように思うので、幸福感に繋がるというのも良くわかるし、私自身も、たしかに回想しながらも新しい研究の計画や大学発ベンチャーのビジネスを同時に考えていることが良くあるので、無意識のうちでいろいろ繋がっているのかもしれない。温故知新そのものである。あまりに回想の素晴らしさに感動して、最近、本まで出版してしまった(註:本の宣伝のためにこの原稿を書いたのではありません)。こういう事を書きながら、今この瞬間も数年前に旭川でエゾヒメギフチョウを家族で採集したことを思い出しながら、院生のこれからの研究内容を同時に考えている。

次回は、分子腫瘍学の田中先生です。

名 前:瀧 靖之(たき やすゆき)

出身地:北海道
趣 味:人生どこに住むのが幸せかを聞いて回る事、その他沢山
分野名:機能画像医学研究分野