瀧 靖之
Yasuyuki TAKI
 

ブータンシボリアゲハ

~世紀の「再」発見~


蝶の世界は奥が深い。幼稚園児の頃、旭川の自宅の庭でなんとなく蝶採りを始めたことをきっかけにどんどんハマっていき、高校生までは旭川近郊で毎週のように里山での蝶の採集、観察に明け暮れた。大学で仙台に来てからも、本州でしか見られない蝶に幾たびも感動し、今でも色々な蝶を見るとつい目で追ってしまい、幸せな気持ちになる。さて、蝶の世界でのビックニュース、研究でいえばノーベル賞級のニュースは、2011年のブータンシボリアゲハ再発見である。

ブータンシボリアゲハは、ブータン側のヒマラヤ山脈中腹で1933年に発見されたもののその後採集の記録が全くなく、これまで世の中にわずか5頭の標本のみが現存し、大英自然史博物館で保存されていた。蝶の愛好家の中では長い間、もはや生存していない幻の中の幻の蝶と思われていた。ところが、2011年夏、日本蝶類学会の調査隊が78年ぶりに、ついにブータンシボリアゲハを再発見して大変大きなニュースになり、NHKスペシャルでも放映された。最も驚き、感動したニュースの一つであった。あのブータンシボリアゲハの生きた姿が、映像とはいえまさか見られるとは夢にも思わなかった。

ブータンシボリアゲハはシボリアゲハ属の一種である。どのシボリアゲハも極めて稀で、その発見は劇的だ。ウンナンシボリアゲハ然り。1981年に北海道山岳連盟のミニヤコンカ登山遠征隊がたまたまベースキャンプで蝶を採集し、その後の山頂アタックで多くの遭難者を出し、その遺品の一部から見つかった。それこそが63年ぶりに再発見されたウンナンシボリアゲハであった。このニュースも当時新聞に大きく報道され、小学生の時にいたく驚いたことを覚えている。

東北地方では4月中旬ごろ、ごく限られた地域で、残雪が残りまだまだ林床が明るい里山の中をギフチョウ、ヒメギフチョウが美しく舞う。ブータンシボリアゲハもウンナンシボリアゲハもギフチョウ属の遠戚と考えられており、翅の模様には多くの類似点がある。早春にギフチョウの観察に行くたびに、ウンナンシボリアゲハやブータンシボリアゲハの再発見ニュースの感動を思い出して、毎年また幸せな気持ちになる。

名 前:瀧 靖之(たき やすゆき)

出身地:北海道
趣 味:人生どこに住むのが幸せかを聞いて回る事、その他沢山
分野名:機能画像医学研究分野