海外留学:人生の分岐点 

渡邉 怜子
加齢ゲノム制御プロテオーム寄附研究部門
 

パスツール研究所で見つけたフランス流「男女共同参画」
日本の価値観からは想像もできない生活が、そこにはありました。


私は、2014年10月にアメリカ合衆国、National Institutes of Health (NIH)において行われたNIH-Japan-JSPS Symposium 2014において、Poster Awardを受賞させて頂きました。ここに至る大きなきっかけとなったのは、海外留学だと私は考えています。私の初めての長期海外経験は、大学院修士1年生のとき、8か月間のアメリカ留学です。初めての海外1人暮らしは驚きの連続で、英語での基本的なコミュニケーション力を培いました。日本へ戻り修士号を取得後、企業へ就職していましたが、当時ポスドクだった夫に帯同してフランスへ行くことになり、2回目の長期海外経験をすることになりました。フランスでは6か月間フランス語を学び、その後は自分の履歴書を研究室に自らメールで送るという現地ならではの就職活動を行い、その結果、約3年半の間フランスのパスツール研究所で研究に携わることになりました。

私がパスツール研究所で最も衝撃を受けたのは、日本とフランスの研究者の働き方の違いです。フランスは日本と比べて労働時間が短く、夫婦共働きがほとんどで、女性は出産後も働き続けるのが一般的、男性は女性と同等に育児に携わっていました。常に研究に没頭することが評価される日本の研究室しか知らず、研究を続ける=子育てと両立ができないと思っていた私は、感銘を受けました。さらに賞賛すべきは、それでも日本と同等の水準で論文が発表されているという事実でした。「働く時間は短くても、出産後も、結果を残し研究を続ける」ことが自然にできる環境を目の当たりにし、今までの、そしてこれからの自分の働き方を考え直すきっかけとなりました。

フランスで第一子を出産後日本に帰国し、加齢医学研究所の加齢ゲノム制御プロテオーム寄附研究部門で働き始めました。フランスでの実体験から、限られた時間の中で結果を出すのが不可能ではないと考えていたことに加え、ドイツとオランダで14年もの海外経験を持つと同時に、働く女性に対して大変理解のある安井明教授と出会い、博士号の取得を目指すことを決めました。安井教授の、辛抱強く的確なご指導の下、途中第二子の出産を経験しながら、約3年半で博士号を取得し、今回のような栄誉ある賞も頂くことができました。研究室には子育てに理解のあるメンバーが多く、加えて私を常に応援してくれた夫の存在もあり、周囲の方々から暖かく見守って頂ける雰囲気に支えられ、助けられ、ここまで来ることができました。

こうして振り返ってみると、フランスでの海外留学経験は、私が研究を続けていく上での分岐点だったように感じます。国内で最先端の研究が可能となり、海外に留学する必要性を感じないという意見を時折聞くようになりましたが、日本と海外の研究室で大きく異なること、海外の研究室でしか経験できないこと(例えば研究の進め方、PIとポスドクとの関係性、多国籍なラボの雰囲気など)は沢山存在します。私の場合は研究者の働き方でしたが、海外では人それぞれの発見や気づきが必ずあるはずです。専門分野の知識と同様に、多種多様な価値観の研究現場を体験したことは、将来研究を続けていく上でも大きな糧となるのではないでしょうか。

最後に、NIH-Japan-JSPS Symposium 2014への参加は、プログラムの旅費支援助成により実現しました。快く送り出して頂いた安井明教授、博士号取得の際に大変お世話になりました分子腫瘍学研究分野の田中耕三教授、身近なお手本となって下さった東北大学の先輩女性研究者のみなさま、並びにここまで支えて下さった研究室のみなさま、そして家族に、この場を借りてお礼を申し上げます。

画像:パリのノートルダム寺院にて(上)/ パスツールの白鳥フラスコ(パスツール研究所内博物館)(下)

名前:渡邉 怜子

所属:加齢ゲノム制御プロテオーム寄附研究部門
(博士研究員)