海を越えHealthy Agingを学ぶ 

藤本 博子
老年医学分野
 

「This is Denmark.」
多様な価値観にふれ、日本のHealthy Agingの在り方を再考する。


この度、デンマーク・コペンハーゲン大学にて約一カ月の短期留学をする機会に恵まれた。私にとって初の海外長期滞在である。出発前から自分の英語力の未熟さに不安を感じてはいたが、幸いにも講義内容は大体理解することが出来た。事前に渡された論文や、私が専攻する老年医学がテーマであったためと思われる。一方、ディスカッションでは自分の英語力の無さを痛感した。他国の学生の発言回数の多さに驚き、自分も一生懸命発言をしたが、細かいニュアンスまで伝える事は出来なかった。また、グループ毎に行った研究のプレゼンテーションの際も、私が発表原稿の暗記に必死だった一方で、他の国の学生のジョークを交えながら聴衆を引き込む発表に魅了された。普段から分かりやすく伝える努力が大切で、そのための英語力と表現力が私には欠けていたと痛感した。

以前から海外で世界中の青年との交流を持ちたいと思っていたが、このプログラムへの参加によりやっと実現する事が出来た。デンマークは福祉先進国としても有名で、日本も範として数々の施策を行ってきた。今回その一端を自分の目で確かめる機会にも恵まれた。

デンマークは寝たきり老人がいないといわれている。日本の特別養護老人ホームにあたるプライエムという施設をいくつか訪ねてみたが、確かに寝たきり老人も経管栄養の高齢者もいなかった。居室は全て個室、最も狭い居室で20m2であった。現在、居室面積をより広くしようと建物の改築が進んでいる。

今、日本では2025年問題が議論となっている。昭和22~24年生まれの団塊の世代が75歳、すなわち後期高齢者になる年である。2012年に1519万人であった75歳以上人口が一気に2200万人へと増加する。それに対して生産年齢人口(15-64歳)は2012年で8018万人、2025年には7064万人まで減少する見込みである。すなわち2012年では5人で1人を支えていたのに対し、将来的に3人で1人を支えざるを得なくなる。後期高齢者の急激な人口増加の問題を抱える国は他にはない。デンマークという福祉先進国の現実にふれて、日本は早急に高齢者の医療・介護の在り方を見直さねばならないと感じた。デンマークでは終末期医療で経管栄養で最後まで対応するという選択肢がない。2025年以降も日本は現行の医療体制を維持できるであろうか。非常に厳しいのではないかと思う。これを契機に、日本のこれからのあるべき・あらねばならない高齢者の医療・介護について考えていきたい。

滞在中、プライエムで働き、日本の大学で介護を研究し修士号を取得したデンマーク人にお世話になった。彼女の言った言葉、「寝たきりはいない。寝たきりになったら自然に任せる。何もしない。This is Denmark.」という言葉が非常に印象的であった。 最後に、加齢医学研究所として初の試みとなる学生の海外派遣の機会を作り、その第一号として私を送り出して下さった川島隆太所長、そしてこの留学に際し手厚くサポートして下さった老年医学分野の荒井啓行教授、古川勝敏准教授はじめ当分野の先生、スタッフの方々に心より感謝申し上げます。

画像:レストランにて(上)/ デンマークのプライエム外観(中)と居室(下)

名前:藤本 博子

所属:老年医学分野
(医学系研究科 医科学専攻 修士課程2年)