◇ 2023年4月26日(水)加齢研セミナーのご案内

日時: 令和5年4月26日(水)午後4時〜5時
場所: 加齢医学研究所スマート・エイジング棟1階国際会議室
演題: ミエリン依存的な脳機能回復メカニズムと老化
講師: 村松 里衣子
所属: 国立精神・神経医療研究センター神経研究所
担当: 本橋 ほづみ(所属 遺伝子発現制御分野・内線8550)
要旨: 外傷や炎症などにより脳と脊髄からなる中枢神経系が傷つくと、様々な重度な神経機能障害があらわれる。症状は、疾患の種類や個人差はあるものの、わずかではあるが自然に回復する。症状が回復する理由の一つに神経回路の修復が挙げられる。中でも神経軸索を取り囲む髄鞘(ミエリン)の修復は機能的な回復の鍵であるが、現時点で承認されたミエリン修復薬はなく、first in classの治療薬の開発が切望されている。
ミエリンは脳内の組織幹細胞であるオリゴデンドロサイト前駆細胞が増殖、分化することで形成・修復させる構造物で、神経回路の恒常性の維持や跳躍伝導を制御する機能を持つ。ミエリンの脱落(脱髄)は、従来から脱髄疾患と認識されていた多発性硬化症などに限らず、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患や様々な精神疾患、また脊髄損傷や脳挫傷など様々な状況で認められ、さらに健常人でも加齢に伴いミエリンの脱落が認められる。これらの状態での神経症状を緩和させるためにミエリンの修復が有望視されており、これまでの研究では、脳内の細胞や分子がミエリン修復へいかに作用するか、解明が進められていた。一方、私たちは、脳の外部環境の変化とミエリン修復の関連に着目し、特に脳以外の臓器に由来する液性因子が、中枢神経傷害後に脳内に流入し、それがミエリンの修復をもたらすという臓器間ネットワークの機序が備わることを見出してきた。特に老化に伴うミエリン修復力の低下には、肺で豊富に産生される生理活性物質のApelin量の低下とオリゴデンドロサイト側でのApelin受容体(APJ受容体)の低下によりものである結果を見出した。本セミナーでは、老化とミエリン修復の研究を中心に、私たちのミエリンに関する取り組みを紹介したい。