◇ 2023年1月26日(木)加齢研セミナーのご案内

日時: 令和5年1月26日(木)午後4時〜5時
場所: 加齢研実験研究棟7階 セミナー室(1)
演題: well-beingな学びの実現に向けた研究
講師: 細田 千尋
所属: 東北大学加齢医学研究所脳科学研究部門 認知行動脳科学研究分野
担当: 田中 耕三(所属 分子腫瘍学研究分野・内線 8491)
要旨: “Winners never quit and quitters never win” これは,アメリカのスポーツやビジネスの信条だとされている(Wrosch, Scheier, Carver, & Schulz,2003a)。 日本だけでなく、世界的にも、逆境の中でも諦めずに情熱をもって粘り強く目標を追求することが美徳とされている(Eskreis-Winkler, Gross, & Duckworth,2016)。また、well-beingを5つの構成要素から定義しているPERAモデルでは、何かに没頭すること(engagement)と何かを成し遂げること(Achievement)が持続的な幸福の上で重要であるとしている。我々の研究室では、何かに没頭し、成し遂げる、という遂行機能の個人差を決定する要因の解明および、達成やエンゲージメントによるwell-beingに着目をしている。
 最初に我々は、長期の英語、あるいは、運動学習)についてトレーニングする実験を行なった。いずれの実験においても、事前に学習プログラムのサンプルを配布し、長期に及ぶ介入内容について明確に理解した上で、モチベーションの高い人のみを被験者とした。モチベーションが高い集団だったにも関わらず、いずれに実験においても、約半数が目標を達成することができなかった。この長期的な目標に対する遂行能力の個人差を、事前の脳構造情報から高確率で予測できることを明らかにした。さらに、日々の目標達成ができないことが、介入中の状態不安をあげ、最終的に脱落に至る時には、自己効力感が低くなっていることも明らかにした。一方、目標設定を切り替えることができた人では、自己効力感が下がらないことも示しつつある。さらにこれらのやりぬくちから、と言われるものが、親(母親)と高い相関を持つことも子供を被験者とした研究からも明らかになった。
 また別の実験では、視空間認知機能の個人差が、数的処理問題の個人差、周辺視野に関連する能力が読解力と関連することなどと共に、それらの能力が共通した神経基盤を持っている可能性も示唆した。これは、苦手とする科目自体をダイレクトに学ぶのではなく、そのほかのeportのような遊びを含めた学習継続が、インダイレクトに学びの向上につながる可能性を示唆したと考えている。
 学習内容や環境の個人にとっての最適性が、達成や自己効力感に大きく影響することをいくつかのデータから示すことができているものについて研究を紹介する。