教授 河本 新平

「健康に長生きしたい。」多くの人が願うことではないでしょうか。
わたしたちは、2025年7月にスタートした新しい研究室で、「老化」という誰もが経験する現象が、なぜ人によって進み方が違うのか?という疑問に取り組んでいます。
同じ年齢でも若々しい人がいます。これは、老化が単なる時間の経過だけでは説明できない、個人差のある現象であることを示しています。では、その違いはどこからくるのでしょうか?
わたしたちは、以下の3つの視点から老化のメカニズムを探っています。

・腸や皮膚などに住む微生物(常在細菌叢)
・体を守る免疫のしくみ(免疫系)
・細胞がストレスに反応して老化するしくみ(細胞老化)

これらの研究を通じて、老化の進行を遅らせ、健康寿命の延伸が可能となる社会の実現を目指します。
「なぜ人によって老化のスピードが違うのか?」という疑問に興味がある方、「健康に長生きしたい」という人々の希望に貢献したい方、ぜひ一緒に研究しましょう!

主な研究テーマ
1) 腸内細菌と老化の関係
腸には数百種類以上の細菌が住んでいて、これらは「腸内細菌叢」と呼ばれます。腸内細菌は、食べ物の消化だけでなく、免疫のバランスを保つなど、人々の健康に深く関わっています。
これまでのわたしたちの研究では、腸内細菌が免疫細胞の働きに影響を与え、炎症や自己免疫疾患の原因になることを明らかにしてきました。また、加齢によって腸内細菌のバランスが崩れると、免疫細胞(特にB細胞)が老化しやすくなることも分かってきました。
今後は、腸内細菌が免疫の老化、そして体全体の老化にどう関わっているのかを詳しく調べていきます。

2)口腔細菌と老化の関係
口の中にも多くの細菌が住んでいて、これを「口腔細菌叢」と呼びます。最近では、歯周病の原因となる細菌が、がんや認知症などの病気にも関係していることが分かってきました。
わたしたちは、歯周病菌が、細胞の老化を引き起こすことで大腸がんの進行にも関わっていることを発見しました。また、加齢に伴う免疫細胞の老化によって、口内環境も悪化することも明らかにしています。
これまでの研究をふまえ、口腔細菌が老化にどう影響するのかをさらに詳しく研究していきます。

3)皮膚細菌と老化の関係
皮膚にも細菌が住んでいて、これを「皮膚細菌叢」と呼びます。皮膚は体の中でも老化が目に見えやすい組織ですが、その老化に皮膚細菌が関係している可能性を見出しました。
わたしたちは、皮膚をモデルにして、細菌がどのように組織の老化に関わっているのかを調べています。

最近の業績
1. Mizuno H, Kawamoto S*(責任著者), Uemura K, Park JH, Hori N, Okumura Y, Konishi Y, Hara E*. B cell senescence promotes age-related changes in oral microbiota. Aging Cell. 2024; 23(12): e14304
2. Kawamoto S*(筆頭著者、責任著者), Hara E. Crosstalk between gut microbiota and cellular senescence: a vicious cycle leading to aging gut. Trends Cell Biol. 2024; 34(8): 626-635.
3. Kawamoto S* (筆頭著者、責任著者), Uemura K, Hori N, Takayasu L, Konishi Y, Katoh K, Matsumoto T, Suzuki M, Sakai Y, Matsudaira T, Adachi T, Ohtani N, Standley DM, Suda W, Fukuda S, Hara E*. Bacterial induction of B cell senescence promotes age-related changes in the gut microbiota. Nat. Cell Biol. 2023; 25(6): 865-876.