教授 医博 西條 芳文



生体加齢計測研究分野は、加齢に関係した生理学的・形態学的・生化学的変化の計測方法や機器の開発・評価により、人の加齢の課程やメカニズムを明らかにすることを目的にしています。

高精度生体イメージングおよびセンサの開発
臨床画像診断において、超音波の安全性・ポータビリティーについてはよく知られていますが、実は、通常のエコー診断よりも高い周波数の超音波を用いることで10ミクロン以上の解像度で臨床画像を得ることが出来ます。当研究分野では、摘出組織や培養細胞のバイオメカニクスと密接に関係する音響特性の可視化のために機械走査型超音波顕微鏡を、開発・実用化してきました。最近では、軟骨の発達や変性が組織のバイオメカニクスと関係することが超音波顕微鏡により証明されました。さらに最近では、生体組織を生体中において高解像度で可視化するために超音波インピーダンス顕微鏡や三次元超音波顕微鏡などの新しいイメージングシステムを開発しています。
センサの開発に関しては、従来高周波数超音波領域で用いてきた機械走査型に替わりアレイ型超音波振動子を国際的な産・官・学の共同プロジェクトとして開始を始めました。

皮膚の状態の医工学的解析
ヒトの皮膚は表皮、真皮、皮下組織の三層から構成されています。このうち、真皮は皮膚全体の弾性や柔軟性を決定するという意味で最も重要な役割を果たしています。当研究分野では、三次元超音波顕微鏡により、真皮の中の毛細血管、毛包、肌の肌理などの三次元的可視化に世界で初めて成功しました。真皮の弾性はコラーゲンやエラスチンなどに規定されていますが、現在、微小振動を皮膚に与えた際の皮膚の振動を高周波数超音波で捉えることで、真皮の弾性を定量的に評価する方法を開発しています。さらに、これらの画像を基盤とした評価方法を従来の皮膚の評価方法である水分含有量、皮脂含有量、自然光/紫外線のCCDカメラ像、皮膚を吸引した際の張力-変位の解析による弾性評価方法などと対比し検討しています。
また、皮膚の評価方法として超音波インピーダンス顕微鏡データを基盤とした超音波インピーダンス計を開発しました。これは、小さなプローブを皮膚に接触させるだけで、皮膚の音響インピーダンスが計測できる機器です。診断だけではなく、形成外科医、美容外科医、化粧品会社などとの共同研究により、肌のスマート・エイジングについての科学的基礎を確立する予定です。

動脈硬化の大規模診断
今日、動脈硬化は動脈壁へのLDLコレステロール沈着に対する慢性的な免疫反応により動脈の壁が厚くなる状態であることが知られています。一般的に、動脈硬化は年齢に相関して進展するので、大規模な対象について簡便にスクリーニングする手法は高齢化社会における市民の健康増進および社会福祉の向上のために重要です。頚動脈エコーや脈波伝搬速度計測などの臨床的に確立した手法を普及させるために、当研究室では安価で小型の超音波診断装置を開発しました。すでに、宮城-岩手内陸地震避難者のエコノミー症候群検診にこの装置を用い、深部静脈血栓検出に必要十分な検出力を持つことを証明しています。また、生協店舗や市民センターでの頚動脈エコー検診により、この装置の大規模対象への応用の可能性を検証しています。
当研究室では、大学のミッションとして研究、教育だけではなく、社会貢献も重要だと考えています。その意味で、2010年には宮城県内において「特定健診プラスワン」として頚動脈エコーを特定健診に取り入れるプロジェクトも開始します。

加齢研究とイメージング・センサ研究の橋渡し
加齢に関連した生理学的・形態学的変化を計測するには、加齢研究とイメージング・センサ研究の密接な共同が必要です。当研究室の研究者は東北大学大学院医工学研究科計測・診断医工学講座も担当していますので、工学領域の先進的計測方法を加齢研究者や臨床医、産業界に紹介するための橋渡しとして貢献したいと考えています。イメージング・センサ研究は診断分野のみならず、病気やスマート・エイジングのための介入への貢献や、薬物・治療領域への波及効果も期待されます。