高井 俊行
Toshiyuki TAKAI
 

問題を先延ばしにするとよくないですね

-危機一髪な目にあった留学中のあの事件についての回想-
 


誰でも面倒なことは何となく先送りにしがちである。それでもなんとか日常が回っているならなおさら。・・私がNYのスローンケタリング研究所(SKI)に留学していたとき,ノックアウトマウス作りを習う関係でお隣のロックフェラー大学(RU)の動物実験施設に頻繁に出入りしていた。SKIのIDカードを見せれば,いかつい格好のRUの守衛さんたちは無表情だが通してくれるのをいいことに,正式に申請していたRUのIDカードが出来上がるのがいくら遅くても,催促せずに先送りした。施設に入れるから問題ない。つまりRUのIDは施設の全ての入退室が可能なカードになっているが,動物実験施設への入室はそれを使わずに施設管理室経由で事実上,入れた。退室も,「その日」までは,問題なく出ることができた。

ある日,それは日曜だったが,入って実験していた。帰るとき,夜遅くなって周りに誰一人居なくなっていたが,いつものように出ようと思って開扉のスイッチを押しても扉が開かない‥鍵がかかっている。どうしよう,たいへん困った。月曜朝まで閉じ込められたままなのか?仕方なくセキュリティーデスクに施設内から内線で電話して事情説明して開けてくれるよう頼んだ。すると『お前はSKIの人間なのになぜそこに一人で入って何をしているんだ』とか『どうやって入ったんだ』とか根掘り葉掘り訊かれて怪しまれ,『今から行くからそこに居るように』とのことだった。

ややあって,大きく重厚な観音開きの鉄のトビラの向こうから『Where are you?』 とか言う大声が聞こえた。私はお腹も空いて疲れてもいたのでトビラのこちらで体育座りをしながら,「Here I am」と弱々しく返答する。‥‥そしてトビラがガバっと開いたかと思うと,守衛さんが西部劇のガンマンのように,素早く銃を抜ける態勢で,仁王立ちしていた。

私が黒いこうもり傘でもぶんぶん振り回していたら命はなかったかもしれない。

画像: 当時のロックフェラー大学の正門。よく見るとセキュリティーガードさんが立っていますね。

次回は、脳機能開発の杉浦先生です。お楽しみに。

名 前:高井 俊行(たかい としゆき)

出身地:岡山県和気町
趣 味:水泳,ジョギング,園芸,ピアノ,ヴァイオリン
分野名:遺伝子導入研究分野