髙井 俊行
Toshiyuki TAKAI
 

受容体サブユニットの衝撃

とても興奮した研究は数々あれど,まずはずいぶん若いときのこれ。
 


cDNAから試験管内でmRNAを作れるようになった時代に大学院生だった。当時の研究室ではシビレエイ電気器官の,サブユニットが4つあるアセチルコリン受容体の各mRNAの注入でカエル卵母細胞でのイオンチャネルの再構成が成功し,興味はよく分かっていない哺乳動物の筋肉のそれにシフトしつつあった。

あるとき,知られていなかった5つめのサブユニットがウシ横隔膜のcDNAライブラリーから偶然見つかった。そこでさっそくmRNAを卵母細胞に注入して,シビレエイとウシのキメラとして再構成ができ,チャネルとしてはたらくかどうかを調べることになった。調べるのは私たち素人ではなく,生理学教室の先生。チャネル機能はパッチクランプという方法で,電磁気を遮断した金網の檻のようなところに入って,顕微鏡下で卵母細胞の表面にガラスピペットを当てがい,イオンの流れを微小な電流として測定する。私の役割は新サブユニットのmRNAを先生に渡すまで。その後は興味津々で測定作業を見学させてもらった。‥‥なんとシビレエイとウシの混成サブユニットがカエル卵母細胞でチャネルとして機能した。そしてもっと驚いたのは,新サブユニットが組み込まれたチャネルは,既知サブユニットから成るものよりもイオンをたくさん通すという結果が出た。

生理学教室の先生も私たちも皆,興奮して,今度はドイツ・ゲッチンゲンのマックスプランク研究所で1ユニットのチャネルが通すイオンの流れを見る実験を行ってもらった。シングルチャネル・レコーディングという,世界中でそこでしかできない測定だ(そこのザクマン先生は後にノーベル賞を受賞)。このときには全てウシ由来のサブユニットから成るチャネルとして調べた。すると,その新サブユニットと,既知サブユニットのチャネルでは,開口時間が明らかに違うことが分かった。新サブユニットが組み込まれたチャネルは,一度開いたら閉じにくい。これまで電気生理学で,何故かは分からないが現象としては知られていた,神経-筋接合部のアセチルコリン受容体と,接合部以外の受容体とでは性質が違うという理由が,サブユニット構成が1コ違うだけで開口時間が異なることによる,と明確に分かった瞬間だった。

次回は、機能画像医学の瀧先生です。

名 前:髙井 俊行(たかい としゆき)

出身地:岡山県
趣 味:園芸,器楽,ジョギング,自転車,水泳
分野名:遺伝子導入研究分野