石岡 千加史
Chikashi Ishioka
 

医療研究開発と「お気に入り研究」の交差点

医療研究開発の初期の段階から求められる知財形成と薬事戦略
 


現在、私たちのグループでは、乳癌や大腸癌のバイオマーカーの探索と体外診断薬の臨床開発、免疫療法を含めた新しい癌治療標的の探索、新規抗がん剤の非臨床試験、抗がん薬の臨床試験や治験など様々な研究に取り組んでいます。これらの研究はシーズ探索のための基礎研究、基礎研究で得られたシーズを臨床研究に繋げる橋渡し研究、市販された抗がん薬の最適な投与法を見いだすための臨床試験に分けられますが、がんの橋渡し研究は我が国の科学研究の中でも戦略的重要研究領域に指定されているため、研究には開発に繋がる成果が求められています。医療の開発型研究の場合、知財形成から薬事戦略などのハードルがあり、研究者が純粋に科学的な興味をもてる研究(「お気に入り研究」)を開発に持ち込み、後期フェーズまで継続して行くことは容易ではありません。例えば、私たちが以前からライフワーク的に取り組んできたDNAミスマッチ修復異常と遺伝性腫瘍の研究テーマがありますが (Shimodaira H et al, Nat Genet. 19:384-9, 1998; Takahashi M et al. Cancer Res. 67:4595-604, 2007ほか)、論文優先で医療研究開発を強く意識しなかったため診断薬の開発には繋がりませんでした。

最近、DNAミスマッチ修復異常を有する進行癌に免疫チェックポイント制御を阻害する抗PD-1抗体薬が極めて有効との報告があり(Le DT, et al. N Engl J Med. 372(26):2509-20, 2015) 、がん薬物療法に大きなインパクトを与えるつつあります。流行を追うわけではなく、旧知の研究領域として私たちはこの領域で新たに診断薬や治療法開発に関わっていきたいと考えています。

次回は、生体防御学の小笠原先生です。

名 前:石岡 千加史(いしおか ちかし)

出身地:仙台市
趣 味:温泉、美術館、スキー、サイクリング、ジャズ
分野名:臨床腫瘍学分野
その他:医学部漕艇部(ボート部)部長