教授 医博 千葉 奈津子
助教 医博 吉野 優樹
助教 医博 方 震宙



研究内容
がん遺伝子、がん抑制遺伝子の遺伝子変異の蓄積が、がんを引き起こし、さらにはその悪性度を高めていきます。私達は、その遺伝子変異によって、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群を引き起こす、BRCA1の機能解析を行っています。BRCA1は、2013年に米国の有名女優がBRCA1の遺伝子変異を持つために予防的乳房切除を受けたことを公表したことで、新聞やテレビでも大きく取り上げられました。その後BRCA1は、遺伝性のがんだけでなく、トリプルネガティブ乳がんという難治性の乳がんなどの散発性のがんや抗がん剤感受性にも関与することが明らかになっています。BRCA1は、細胞内のさまざまな機構に関与しますが、私達は特に、そのがん抑制能に重要な、DNA修復、細胞分裂において染色体の分配に機能する中心体でのBRCA1の働きについて研究を行っています (図1)。

中心体は、細胞の分裂期に紡錘体極として、染色体の均等な分配において重要な機能を果たし、この機能の破綻は、染色体の欠失や過剰をもたらし、遺伝子異常の原因になります。私達はBRCA1結合分子としてObg-like ATPase 1 (OLA1) と receptor for activated C kinase 1 (RACK1)を同定し、これらのがん由来の変異が中心体制御能に異常をもたらすことを明らかにしました。また最近は、DNA損傷後、BRCA1が核内でのDNA損傷シグナルを中心体に運んで、中心体数を増加させることを明らかにしました (図2)。

DNAは活性酸素などの内的要因や放射線や化学物質などの外的要因によって、絶え間なく損傷をうけており、DNA修復能の破綻もまた、遺伝子変異の蓄積をひき起こします。BRCA1が関与するDNA修復能の異常は、新しいがん治療の予測因子や標的としても注目されています。私達はBRCA1の重要なDNA修復能である相同組換え活性の新たな測定法Assay for Site-specific HR Activity (ASHRA)を開発しました。この方法は、従来法よりも簡便で定量性に優れており、これを用いて、私達はBRCA1の転写活性化能による、PARP阻害剤の新たな耐性機構を明らかにしました。

私達はこれらの研究を発展させ、その他のさまざまな腫瘍関連分子に着目した研究を展開しています。それにより、発がんのメカニズムを解明し、また、治療や予防のための新たな標的分子の探索、放射線や抗がん剤の感受性予測因子の探索など、今後のがん治療において重要な個別化医療の開発に貢献することをめざしています。

図1図2