Yasui

 

加齢研フェロー 安井 明



加齢研フェロー

平成28年4月より加齢研で新たに「フェロー」職が創設されました。この「加齢研フェロー」職は非常勤で、科研費や寄付金などの外部資金を運用しますが、科研費等の申請の際の職名として登録され、加齢研共同研究の受入教員を任され、教授会へのオブザーバー参加を許されています。事務上は特定の研究分野(分子腫瘍学)に属します。この職は加齢研の研究者や研究活動の可能性を広げることが期待されます。

研究グループ

安井 明 PhD, 菅野新一郎 MD, 大和留美子, 近藤久美子, 千葉いずみ
研究活動:老化の理解と癌制御のためのDNA損傷、クロマチンリモデリングとDNA修復の研究
幹細胞の老化はゲノムの突然変異とクロマチンリモデリングの機能変化が主な原因と考えられています。これらは細胞癌化の主な原因でもあります。この加齢研フェロー研究グループはクロマチンリモデリングがDNA修復に関与する機構を明らかにし、癌細胞での修復欠損を癌治療に応用する研究を行なっていますが、同時に、クロマチンリモデリングとDNA修復が細胞老化を制御する機構を明らかにする目標を持っています。詳細は別項1)をご覧下さい。
相互作用蛋白同定技術による国内外の研究サポートこの研究グループは、国内外の種々の研究領域で相互作用蛋白質の同定を含む蛋白質の機能解析を共同研究としてサポートしています。詳細は別項2)をご覧下さい。

1)研究活動
DNA修復は進化の初期から存在し、現在のバクテリアからヒトに至るまで種々のDNA修復システムが保存されている極めて重要なゲノム安定性機構です。文献1-3はこのことに関しての私の初期の発見です。それ以来、私は種々のDNA修復機構に関する多数の研究に関与して参りました。最近、ヒト細胞内で、DNAとヒストンなどの蛋白質からなるクロマチンを動かすクロマチンリモデリングがDNA修復や転写制御と協調して働くことと、多くの癌細胞ではこれらのクロマチンリモデリング因子が頻繁に発現欠損を起こしていることを見つけました(文献4-6)。癌細胞の弱点がDNA修復をサポートするクロマチンリモデリングの機能に見つかったのです。さらに、DNA損傷により引き起こされる突然変異やクロマチンリモデリングの異常は幹細胞の老化の主な原因である事が最近分ってきました(文献 7)。我々の上記の研究結果は、老化に伴うDNA損傷の蓄積とクロマチンリモデリングの変化が修復欠損を介して幹細胞の老化と癌化を産み出す事を示しています(幹細胞の老化と癌化の作業仮説の図参照)。また、癌細胞には高頻度のクロマチンリモデリングの変化が起き、修復欠損をもたらすことから、この関係は効果的な癌治療に繋がる可能性も示唆しています。私は、これらの研究を発展させる為に「加齢研フェロー」という名誉ある職を戴きました。老化を乗り越える働きをする職にしたいと思います。
図1。作業仮説

文献:

(1) Yasui A, and Chevallier MR. Cloning of photoreactivation repair gene and excision repair gene of the yeast Saccharomyces cerevisiae. Curr. Genetics, 7, 191-194, 1983. 真核生物由来のDNA修復遺伝子の初めてのクローニング
(2) Yasui A, and Langeveld S. Homology between photoreactivation genes of Saccharomyces cerevisiae and Escherichia coli. Gene, 36, 349-355, 1985. 原核生物と真核生物間の修復遺伝子の同一起源を発見。
(3) Van Duin M, et al. Molecular characterization of the human excision repair gene ERCC1: cDNA cloning and amino acid homology with the yeast DNA repair gene RAD10. Cell, 44, 913-923, 1986. 酵母とヒト修復蛋白間の相同性の発見。
(4) Lan L, et al. The ACF1 complex is required for DNA double-strand break repair in human cells. Mol Cell 40, 976-987, 2010. ATP依存的クロマチンリモデリングACF複合体のDNA二重鎖切断の修復での機能を発見。
(5) Watanabe R, et al. SWI/SNF factors required for cellular resistance to DNA damage include ARID1A and ARID1B and show interdependent protein stability, Cancer Res. 74:2465-2475, 2014. ARID1Aと1Bを含むBAF複合体は二重鎖切断の修復、X線やシスプラチン抵抗性に必要で多くの癌細胞で発現欠損している。
(6) Ui A, et al. Transcriptional elongation factor ENL phosphorylated by ATM recruits Polycomb and switches off transcription for DSB repair. Mol Cell. 58:468-82, 2015. RNAポリメラーゼII複合体中の転写伸長因子であるENLは二重鎖切断が生じると活性化されたATMキナーゼによりリン酸化されポリコームPRC1複合体のBMI1と結合してPRC1を呼び寄せてヒストンH2Aをユビキチン化させて転写を止め、DNA修復を可能にする機構を発見した。
(7) Goodell MA and Rando TA, Stem cells and healthy aging. Science. 350:1199-1204, 2015. 幹細胞老化の因子として突然変異の増加、クロマチンリモデリングの変化と細胞外環境因子の影響を示した最近の研究結果をレビューした。

2)相互作用蛋白同定技術による国内外の研究サポート
“相互作用蛋白の同定をお引き受けします”
私達は加齢医学研究所の加齢ゲノム制御プロテオーム寄付研究部門で、ヒト細胞を使ったヒト蛋白質の複合体解析技術を開発し、ゲノム安定性に関わる未知及び既知蛋白質の蛋白質複合体を解析してそれらの細胞内機能を研究して来ました。同時に、この技術を用いて附置研究所の義務である国内及び国際共同研究を行なって参りました(主な論文リストをご参照下さい)。その際にはタグ付きバイト蛋白の発現細胞の樹立と免疫沈降による相互作用蛋白質の同定法を用いました。この方法には細胞を特定の状況に置いたときの相互作用蛋白を同定出来るという長所と共に細胞が特定の細胞に限られるなどの幾つかの制限があり、その克服の為に、組換え蛋白を用いた相互作用蛋白質のアフィニティ精製技術を確立させました。この技術は細部内での分子数の少ない結合蛋白質を見つけ、ES細胞や神経、免疫細胞など種々の培養細胞での結合蛋白を同定出来るのみならず、特定の臓器細胞での相互作用蛋白を同定することや、細胞内器官,例えばミトコンドリアでの相互作用蛋白の同定や膜蛋白や巨大複合体の結合も明らかにすることが可能です(図2相互作用蛋白同定の二つの方法、及び図3アフィニティカラムによる結合蛋白質同定の例をご覧下さい)。
図2 相互作用蛋白同定の二つの方法。

大腸菌あるいはバキュロ細胞で作った組換え蛋白で全長や部分のドメインに結合する特定の細胞由来の結合蛋白の同定や、二つの似通った蛋白質の相互作用蛋白の違いを決めることも可能です。アフィニティを用いた相互作用蛋白の同定は、結合蛋白候補が数週間で決められる長所もあります。タグとしてGSTを用い、GSTをバイト蛋白のN端とC端に置いて得られる結合蛋白を比較して決定いたします。私達はこの技術を是非皆様の研究対象の蛋白質に使って頂きたいと思い、共同研究を募集しております。細胞樹立と免疫沈降の方法もご説明ご指導いたします。詳しくは、以下の説明を読んで頂いて、ご興味のある方は直接 akira.yasui.d8@tohoku.ac.jp 宛にメイル でお尋ね下さい。

図3 アフィニティカラムに付けた組換え蛋白質への結合蛋白質同定の例
早老症で有名なウエルナー症候群の原因蛋白WRNのドメインを詳しく解析し、それぞれを大腸菌でGST融合蛋白として作製し、カラムに結合させ、ヒト核エキストラクト中の結合蛋白を溶出してゲルに展開した後、質量分析でそれぞれのバンドを同定した結果です(Kanno S.-I. unpublished)。WRNのように著名な蛋白であっても多くの新規結合蛋白とその結合部位が明らかになりました。

御連絡頂く事、お送り戴くもの、負担して頂く費用:

(1)まずメイル akira.yasui.d8@tohoku.ac.jp で遺伝子の名称をお知らせ下さい。どのような細胞環境での相互作用蛋白を調べられたいかをお伝え下さい。遺伝子がコードする蛋白質のバイオインフォマティックスを調べ、実験の計画をご相談します。

(2)その後にバイト蛋白をコードする遺伝子のcDNAをお送り下さい。ベクターに入っている制限酵素部位などをご存知の場合はお知らせ下さい。ヒト293細胞のエキストラクト(核及びサイトゾール分画)は準備していますが、他の細胞をご希望の場合はエキストラクト調整のために必要な細胞のペレット(1ml以上)をお送り下さい。実験は直ちに開始しますが、条件検討などのために追加的な実験が必要な場合があり、結果が出るまで2ヶ月程度の期間をお考え下さい。
(3)費用について;基本的に無料ですが、継続してのサポートを可能にする為に、組換え蛋白の作製と精製や結合蛋白のアフィニティ精製に必要な消耗品を納入していただきます(バイト蛋白質1本当りおよそ3万5千円とし、お送り頂く消耗品をご連絡いたします)。 SDSゲルに展開した結合蛋白質候補の質量分析による同定には、質量分析をご依頼者にお任せするか、ご希望されれば、私達が技術指導する東北大学ベンチャーの(株)日本プロテオミクスにお願いします。多額の負担が掛からないような配慮をいたします。ご相談下さい。

(文献)私達の最近のプロテオミクス/共同研究の成果
(1) Ui A, Nagaura Y., and Yasui A. Transcriptional elongation factor ENL phosphorylated by ATM recruits Polycomb and switches off transcription for DSB repair. Mol Cell. 58:468-82, 2015.
(2) Homma Y, Kanno S, Sasaki K, Nishita M, Yasui A, Asano T, Ohashi K, Mizuno K. Insulin receptor substrate-4 binds to Slingshot-1 phosphatase and promotes cofilin dephosphorylation. J Biol Chem. 289:26302-13 2014.
(3) Matsuzawa A, Kanno S, Nakayama M, Mochiduki H, Wei L, Shimaoka T, Furukawa Y, Kato K, Shibata S, Yasui A, Ishioka C, Chiba N. The BRCA1/BARD1-interacting protein OLA1 functions in centrosome regulation. Mol Cell, 53, 101-14, 2014..
(4) Musselman CA, Avvakumov N, Watanabe R, Abraham G, Allen C, Roy S, Nunez J, Nickolof J, Kulesza CA, Yasui A, Cote J and Kutateladze TG. Molecular basis for H3K36me3 recognition by the tudor domains of PHF1. Nat. Struct. Mol Biol. 19, 1266-1272, 2012..
(5) Zhang X, Horibata K, Saijo M, Ishigami C, Ukai A, Kanno S, Tahara H, Neilan EG, Honma M, Nohmi T, Yasui A, and Tanaka K. Mutations in UVSSA cause UV-sensitive syndrome and destabilize ERCC6 in transcription-coupled DNA repair.. Nat Genet. 44, 593-7, 2012..
(6) Lan L, Ui A, Nakajima S, Hatakeyama K, Hoshi M, Watanabe R, Janicki SM, Ogiwara H, Kohno T, Kanno SI, and Yasui A. The ACF1 complex is required for DNA double-strand break repair in human cells. Mol Cell 40, 976-987, 2010..
(7) toh G, Kanno SI, Uchida KS, Chiba S, Sugino S, Watanabe K, Mizuno K, Yasui A, Hirota T, and Tanaka K. CAMP (C13orf8, ZNF828) is a novel regulator of kinetochore-microtubule attachment. EMBO J. 30, 130-144, 2011.

3)英語学習アドバイザー
私は7年程前にCNNのニュースを見る機会があり、その際に内容の理解が殆ど出来なかった事にショックを受け、それ以来、なんとしてもCNNのニュースが理解出来るレベルに達しようと勤めてきました。その結果、今や、CNNやBBCのニュースや議論が理解出来る様になりました。一度この状態に到達すると英語で種々の情報が得られるので、英語能力は自然と上達します。この経験をお伝えしたいと思います。私は英語圏で暮らした事はありません。種々の英語上達法を試みた末の私の結論は以下の通りです。英語力向上に興味のある方はご遠慮なくakira.yasui.d8@tohoku.ac.jp (#を@に変換)お尋ね下さい 。

目標/ゴールを持つ事。ただ上達するのが目的ではゴールが見えません。意欲が無くなれば元に戻ります。次の国際会議でしゃべるのが目的ではそれが過ぎるとやはりもとに戻ります。また、会議で専門の話は出来てもそれ以外の会話が出来ないのが残念です。明確で役に立つゴールとして「CNN/BBCのニュースの理解」をお勧めします。このゴールは、日本語への翻訳を介さないで、科学を含めた現在の世界の情報を得ることになり、英語能力のみならず個人の教養のグローバル化をもたらします。CNN/BBCのニュースを見る機会のない方は毎日、ネットでCNN.comあるいはBBC.comでその日のニュースを見ると、それぞれのニュースの動画とその説明文が現れます。ニュースを理解する為に単語を引いて意味を知ります。私の経験では、加齢研の研究者はこのゴールに5〜10年位で到達します。このような英語能力の上達は英語を職業上必要としている我々科学者が得られる役得の様なものです。そうなれば、加齢研が日本あるいは日本人の懸案のグローバル化のフロントランナーになるでしょう。

この目標到達の為に有効な私の経験則を以下に書きました。

Everyday learning: もう一つ重要なことは、出来れば毎日、自分のレベルと興味に合った英語の教育に触れる事です。日本語の番組よりもBBC/CNNのニュースを毎日見るのは世界の情報に触れ英語の上達に役立ちます。研究所の英語コースに出席するのは、しゃべる練習に最適です。また、NHK第二放送の入門ビジネス英語 business communication in simple English (月・火 朝9:15-9:30)と実践ビジネス英語 business communication in action(水曜—金曜 朝 9:15-9:30)をお勧めします。前者は平易な会話を自分でする練習、後者は通常のビジネス会話をするレベルですが、ビジネスと言っても普通の会話を習う事であり、研究者同士の会話で人とのつながりが出来るのはこのような英語能力です。実践ビジネス英語は同時に米国の社会の習慣や生活の情報を与えてくれる素晴らしい構成になっています。私はこの毎日15分のラジオ番組を車の中か、研究室のラジオで聞いています。それぞれ 再放送があります。土曜日の朝11時からその週の3回の実践ビジネス英語が連続して放送され、私はこれを録音して車の中で何度も聞いています。テキストは、4月以外は生協でも少ししか入荷しません(殆どの人が三日坊主です)ので、ご注意下さい。
目標は平気で英語をしゃべるバイリンガルの研究者/院生からなる研究所 私はオランダに3年働いていました。オランダ人は英語にオランダ語のアクセントが入りvocabularyも多くなく決してnativeのように上手とは言えないのですが、だれも英語をしゃべることに躊躇しない習慣があります。そのような英語をお互いでしゃべるのも平気。しかしヒヤリングは良く出来ます。それが我々の到達出来るところと思います。