山家 智之
Tomoyuki YAMBE
 

心筋梗塞を放置したらどうなるか?

実際の治療効果を調べるのは難しいのです

 


「あ、そ~ゆえば・・・研修どこ行くんだっけ?」
「はい! 日本で最北端の研修病院へ行きます」
「?え! スゲエなあ~・・・偉い! 他の病院も、あたったの?」
「はい、五島列島とか」
「わ~ぉ、日本の左の端っこと、上の端っこかい???
気合入っているねえ~! 偉い! ところで、カテ室や、脳外あんの?」
「いや~循環器ないんです・・・昔、先生が、水泳部のコンパで、日本唯一の「旭川の心筋梗塞」のデータの話。しましたよね?」
「あ、日本で旭川にしかない、「心筋梗塞の自然歴」のデータね」
「はい」

・・・ちょっと驚いた。

現代の仙台では、救急車はおよそ八分で来ると言われています
カテ室のある病院も10指に余るでしょう
その結果、心筋梗塞の死亡率は、主だった病院では、10%を切ります。

実は、日本人の心筋梗塞の自然歴
つまり、日本人の心筋梗塞を治療せず放置したら、どうなるか?
は、実はよくわかっていないのです。
例えば仙台なら、すぐ治療が始まってしまうので

いくら何でも、目の前でうんうん苦しんでる患者さんを前に
「何の治療もしない」と言う選択肢は、日本ではありえません
でも
本当は、そこを厳密に比較しないと、
治療の効果は、判定できないはずです
実は、肝心の、そのデータは、ほとんど、ないんです。

「全世界でただ一つ、ここにだけは、日本人の心筋梗塞の自然歴のデータがあります!」と、
豪語していたのは、昔の、旭川医大の第1内科の先生
「全然、自慢になりませんが、雪だと、病院に、たどり着けないんです・・・」
と、ご講演でお伺いした時には、
ちょっと感心してしまいました。

実は、開業医さんのクリニックに、当たり前のように心電図の機械が置いてあるのは日本だけです。
つまり、
胸が痛い患者さんを前に、
「確定診断がつき(心電図で)」
かつ、
「治療ができない(病院に、雪でたどり着けない?)」
と、言う状態が現出するのは?
この丸い地球全体の上でも、日本の北海道だけ??・・・に、なるわけです

欧米では、開業医のクリニックは聴診器一本くらい。
重症患者は、まっすぐ救急車で総合病院へ送るだけなので
たとえ同じように、雪やブリザードで閉ざされても
心不全の病態は、症状とラ音や浮腫、静脈怒張等で、
「疑診」くらいは可能かもしれませんが
遥かに診断精度が低い、遠い世界です

旭川医大のデータでは、LADの閉塞で、雪で病院へ転送できなかった場合には、実は、50%近くもの死亡率があるようです

やっぱり結構な死亡率だと思いますが、LADは
PTCAのガイドワイヤーが行きやすいところでもあり
カテ室までさえ
生きてたどり着いてくれれば、あとは、インタベ専門医の腕の振るいどころ
「おっしゃあ! 俺が広げたる!」
と、言う感じで、たちまち治療が始まります。

それにしても、
水泳部のコンパでの僕の話を覚えていてくれたとは、ちょっとビックリした。

日本の医療資源は、かなり偏在していると言われています
よく考えてみなくてはなりません。

見上げた医学生さんも、いるものですね。

名 前:山家 智之(やんべ ともゆき)

出身地:仙台産まれの仙台育ち
趣 味:トレイルランから降りて川縁ラン。後田川、笊川、名取川を走り抜けると、時々、白鳥に出会います
分野名:心臓病電子医学分野