おみやげは、世界の知識 

石木 愛子
老年医学分野
 

身近なチャンスを活かして、国際学会を2倍楽しむ!


2年前、私は国際学会や留学とは無縁の三陸沿岸の地域病院で、一内科医として働いていました。英語はできないけれど、ジャパニーズネイティブとはツーカーですなどと嘯いていたものです。海外はもちろん、仙台や東京にも行ったことがないじいちゃんばあちゃんに囲まれて暮らしていた私でしたが、地域の高齢者の健康をサポートする医療を勉強しようと一念発起し、老年医学分野での大学院生活が始まりました。

「submissionが迫っていますが大丈夫ですか?」1年過ぎたある日、上司から届いたメールが私を震撼させました。“AAIC: Alzheimer’s Association International Conference”アルツハイマー病に関して世界を代表する国際学会です。心の準備が出来ないまま慌ただしくsubmitし、蓋を開けると人生初の英語オーラル発表。大いなる光栄と胃に穴が開きそうなプレッシャーとを抱きましたが、指導教官の先生方の熱心なご指導と、そして加齢医学研究所研究助成という心強い後ろ盾をいただき、発表日を迎えました。

発表テーマは新規タウPETトレーサー、THK-5117に関してであり、経験上最多の聴衆が集まりました。想像に難くない拙い発表で、共同研究者の先生のお力を借りて、なんとか乗り切ったというのが事実です。しかし、世界に先駆けるテーマに携わっているという責任と誇りを強く感じました。

胃薬を持参して臨んだデンマークでしたが、ひとつ、楽しみがありました。東日本大震災後、被災地で出会ったデンマーク人看護師がいたのです。デンマークは“Normalization”発祥の社会福祉先進国と言われており、自分の目でその現場を見ることができる絶好のチャンスです。「彼女がいる!」採択通知が来たと同時に、現地の介護施設を見学する約束を取り付けました。

印象的だったのは夕方になると食堂に集い、アクアビット(蒸留酒)を楽しむ高齢男性たちの姿です。“Aging in place(住み慣れた地域で、自分らしく最後まで)”という概念のもと、自宅での暮らしが困難になると、地元の施設に“引っ越し”て、友人たちと共に生活する。そして日本とは異なる石造りの家は、100年を超えて次の世代に住み継がれていきます。デンマークの高齢者の親子同居率は低く、6%程度という報告があります。少子高齢化、核家族化が進行し、老々介護世帯や独居高齢者の増加が問題となっている日本で、若年世代に頼りすぎない高齢社会のつくり方のヒントがここにあるかもしれないと感じました。

1週間の海外出張から帰ると、地域での診療に戻ります。「ばばば!すばらく顔みねぇと思ったらセンセ、ヨーロッパさ行ってだんだってぇ?!」私の原動力、じいちゃんばあちゃんの元気を増やすため、世界の知識をおみやげに。

画像:学会で発表(上)/ 介護施設のカフェテリア(下)

名前:石木 愛子

所属:老年医学分野
(医学系研究科 医科学専攻 博士課程2年)