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センター長、教授(兼) 医博 川島 隆太
准教授(兼) 医博 冲永 壯治



~高齢者における適切な薬物治療のエビデンスの確立を目指して~

1.開設の経緯

今後、わが国の高齢化は益々すすみ、団塊の世代が後期高齢者に至る2020年頃には4人に1人が高齢者となり、医療に占める高齢者のウエイトは益々高まります。高齢者は多病で薬物の使用頻度も高く、一方、臓器障害の合併率も高く、適切な薬物の使用が高齢患者様の生命予後を左右します。2005年に日本老年医学会から「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」が刊行されましたが(2015年現在改訂作業中)、実際の医療現場では未だ十分に実践されていないのが現状で老年病専門医の役割が益々重要になってきます。そこで、平成23年7月1日東北大学加齢医学研究所は、「高齢者における有効かつ適正な薬物療法の普及」をめざすべく、本趣旨に御賛同頂いた複数の製薬会社(アストラゼネカ、大塚製薬、小野薬品、協和発酵キリン、日本セルヴィエ、大日本住友製薬:五十音順、敬称略)6社による「東北大学加齢医学研究所高齢者薬物治療開発寄附研究部門」の設立に至りました。平成26年7月1日からは、大塚製薬、小野薬品、協和発酵キリン、日本セルヴィエ、大日本住友製薬、医療法人将道会の支援によって第2期目の活動を行っております。部門のミッションとして、①すべての医師を対象に高齢者への多剤併用のリスクおよび使用を差し控えるべき薬剤の啓蒙、②医師および医学生を対象に高齢者にとって望ましい薬物処方の教育、③高齢者を対象とした新しい薬物治療のエビデンスの構築、および④薬剤におけるpleotropiceffect(多面的作用)の発見などが挙げられます。今後も、これまで同様、加齢医学研究所の多くの先生方と協同して、高齢者の健康長寿に寄与する薬物療法のエビデンスを構築するための臨床研究ならびに啓蒙活動を精力的に進めて参ります。

2.これまでの研究の歩み

老年医学分野のもとで以下の研究を進めて参りました。

(1)高齢者肺炎の病態解明と予防法の確立:高齢者の肺炎は誤嚥をもとにした「誤嚥性肺炎」が圧倒的に多く、特に日常生活動作の低下した高齢者では、嚥下反射にかかわる知覚神経に含まれる神経ペプチドのサブスタンスPが減少して不顕性誤嚥を頻回におこし、雑菌を含む唾液などの口腔・咽頭内容物を肺に吸引して肺炎を起こす事を明らかにしました。さらに、不顕性誤嚥は、日本人に多い大脳基底核の血管障害やパーキンソン病などの基底核の障害時に生じやすい事を確認しました(図1)。また、その機序をもとに、不顕性誤嚥の予防策としてACE阻害薬、アマンタジン、シロスタゾール、半夏厚朴湯、モサプリドが有効で、それらの使用で肺炎の罹患率が低下する事を明らかにしました。
(2)脳移行性ACE阻害薬を用いたアルツハイマー病の新規予防法の確立:アルツハイマー病は今後益々増加しわが国の脅威となる疾患であるが、根本治療薬は未だ開発段階にあります。そのような状況の中で、降圧薬のACE阻害薬の中でもBlood brain barrier(血液脳関門)を通過し、記憶や学習機能に関与する脳内のレニンーアンジオテンシン系を制御し得る脳移行性ACE阻害薬が認知機能低下の抑制効果を有する事を明らかにしました。
(3)特殊環境下の肺炎として避難所肺炎(Shelter acquired pneumonia: SAP)の提唱:この度の東日本大震災において、被災地にある大学病院の1つとして避難所から搬送された高齢肺炎患者の診療経験を基に避難所肺炎の概念を提唱しました。その定義は、「大規模な自然災害時に、ライフラインが途絶した被災地の避難所での生活を余儀なくされた集団避難民において、避難生活3日~数週間後に発症する肺炎。圧倒的に脳血管障害もしくは脳変性疾患などを有する虚弱高齢者に多い。低栄養、口腔内不衛生に関連しての誤嚥性肺炎が多い」というものです(図2)(JAm Geriatr Soc 59, 1968-70, 2011)。

図1

図1

主な研究業績(2010年以降)

大類孝 ~脳移行性ACE阻害薬~ ADの発症、認知機能低下を抑制 Medical Tribune Vol.43 No.2, 2010
大類孝 座談会 高齢者高血圧治療の注意点 日本薬事新報 No.4486 C1-C6, 2010
大類孝、海老原孝枝、山﨑都 肺炎の予防と治療をめぐって「誤嚥性肺炎を防止するために」 呼吸器感染症最新知見AtoZ 2010増刊号 100-106
大類孝 誤嚥性肺炎の治療薬はカルバペネムを主軸とする「感染症診療 Pro & Con-ディベートから見える診療の真髄」、南江堂、 p 113-116, 2011 
大類孝 誤嚥性肺炎の治療法は?「呼吸器感染症における不思議50」p176-180, 2011
大類孝 降圧薬には認知症に良いものと悪いものがあるか?医歯薬出版株式会社「医学のあゆみ―老年医学・高齢者医療の最先端」Vol.239 p 413-417, 2011
大類孝、古川勝敏、荒井啓行 認知症学(下)日本臨床社 Ⅲ.臨床編 認知症の重症化に伴う医学的諸問題各論「誤嚥性肺炎の診断と治療と予防」日本臨床 69巻増刊号10, p522-526, 2011
大類孝 高齢者高血圧と肺炎 ライフサイエンス社 Geriatric Medicine 老年医学49巻:p1443-1446, 2011
大類孝 高齢者特有の症状理解と急変対応のポイント:高齢者の救急疾患と対応「肺炎」「レジデント」p83-89,2012 
大類孝 誤嚥性肺炎 科学評論社 Respiratory Medicine「呼吸器内科」21巻 p385-390, 2012
大類孝 特集:嚥下性肺疾患と胃食道逆流症(GERD)テーマ:「誤嚥性肺炎」呼吸器内科 21(5):385-390, 2012
大類孝 認知症末期患者の胃瘻造設「適応を慎重に検討すべき」の立場からライフサイエンス社 Geriatric Medicine 老年医学50巻:p384-390, 2012
大類孝 特集:RAAS研究の進歩:認知症―脳内レニン・アンジオテンシン系の制御によるアルツハイマー病の新たな予防法 日本臨床 第70巻・第9号(平成24年9月号),2012
大類孝 在宅感染症対策「誤嚥性肺炎の予防対策」難病と在宅ケアVol 18, No.7, p37-41, 2012
大類孝「呼吸リハビリテーションはどこまで進歩したか:TOPICS 高齢者誤嚥性肺炎予防の新戦略」 Journal of Clinical Rehabilitation Vol.22, No.1 pp78-81.2013.医歯薬出版株式会社
大類孝「誤嚥性肺炎患者の栄養管理」高齢者の栄養‐はじめの一歩(羊土社)p136-144,2013
大類孝「高齢者のための薬の使い方―ストップとスタート」 3.老年症候群の治療 嚥下障害・誤嚥 pp106-110 ぱーそん書房(東京)2013
大類孝「超高齢社会における誤嚥性肺炎の現状」 日本老年医学会雑誌 Vol.50, No.4 pp458-60.2013
石木愛子、大類孝「高齢者における意識障害の原因と対応:感染症による意識障害」 Geriat. Med. 51(8): 789-793, 2013
大類孝他「嚥下性肺疾患の診断と治療(改訂版)」2013
大類孝  第54回日本老年医学会学術集会記録 シンポジウムⅠ「高齢者の嚥下障害、その評価と対応」「超高齢社会における誤嚥性肺炎の現状」日本老年医学会雑誌 第50巻(4号)p458-460、2013 
大類孝 第16回「認知症を語る会」記録集 講演Ⅲ「認知症と嚥下障害」Geriat. Med.51(8):839-845, 2013
大類孝「認知症ハンドブック」医学書院 p311~316
藤本博子、石木愛子、大類孝 特集 高齢者の肺炎―NHCAPを中心にー「高齢者肺炎の予防―ワクチン以外」Modern Physician vol 33. No.12 pp1507-1509, 2013
大類孝 高齢者肺炎の現状と新たな予防策 日老医誌 51:222-224, 2014
大類孝 特集高齢者の薬物療法ガイドライン セミナー2.慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺炎の薬物療法Geriatric Medicine 52(8), 909-913、2014