東北大学加齢医学研究所 加齢医学研究拠点 | Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku University

お知らせ

老年医学分野の新田明美研究生が米国老年医学会でInternational Poster Session Awardを受賞

我が国における人口構成の高齢化に伴い、高齢者に対する医学研究やその実践の場である老年医療の重要性は年々高まっています。米国にはAmerican Geriatrics SocietyというGeriatrician(老年科医)を中心とした学会があり、その年次総会には米国のみならず世界各国から研究者が参加しています。本年はワシントン州シアトルで5月2-5日の日程で開催されました。加齢研からは老年医学分野の新田明美研究生、古川勝敏准教授、荒井啓行教授らが” Exacerbation of dementia after the earthquake and tsunami in Japan”というタイトルでポスター発表を行い、その研究内容の重要性が評価されInternational Poster Session Awardを受賞しました。これまで本学会で日本人がAwardを受賞するのは非常に希有なことでした。

アルツハイマー病患者における東日本大震災後の症状増悪に関する研究
要旨:2011年3月11日14時46分に発生した大地震と津波により東北地方の沿岸部に位置する多くの市町村で家屋が流失、約2万人が死亡または行方不明となった。さらに約48万人(最大時)が避難所暮らしを余儀なくされ、その中には認知症を有する高齢者も含まれていた1)。本研究により、被災しなかった認知症高齢者に比べ、被災後自宅に留まった認知症患者、被災そして避難所生活を強いられた認知症患者は中核症状である認知機能だけではなく、周辺症状としての行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:以下BPSD)も悪化することが明らかとなった2,3)
                                               
背景:これまでに震災後の環境激変による認知機能の低下に関する研究はあるが、BPSDの変化を同時に調べた研究はない。

目的
:アルツハイマー病患者(AD)を対象に東日本大震災前後における認知機能の変化及び行動・心理症状の変化を調べること。

方法:宮城県内2つの病院に通院するAD患者55名を被災しなかった群(group 1)、被災したが避難所に行かなかった群(group 2)、被災しかつ避難所に行った群(group3)と3群に分け、認知機能を評価するMini-Mental State Examination(以下MMSE)の点数、BPSDを評価するNeuropsychiatric Inventory Questionnaire(以下NPI-Q)の点数について、 震災前、震災後の変化を調べた。また、MMSEとNPI-Qの下位項目において、震災前後の点数差を算出した(表)。

結果:表に本研究の対象者の属性を示す。
図はMMSEとNPI-Qの震災前と震災後の点数の変化を示す。両者において、震災前-震災後を比較すると、group 1ではほとんど変化が見られなかったが、group 2、group 3 と取り巻く環境が悪化するにつれ、認知機能およびBPSDが悪化した。震災後のMMSE スコアはgroup 1と比べ、group2、group3で統計学的に有意に点数が低下した。震災後のNPI-Qスコアは、group 1とgroup 2、group 2 とgroup3 、group 1とgroup 3のそれぞれの間で、統計学的に有意なBPSD悪化がみられた。MMSEのそれぞれの下位項目の震災前-震災後の点数差(図)は、環境が悪化するほど(group2、group3)時間、場所、計算、言語機能に悪化がみられた。また、NPI-Q (図)の下位項目の震災前-震災後の点数差においても同様、環境が悪化するほど点数差がみられ、特に被災し避難所へ行った群では攻撃性、うつ、不安、情緒不安定さの項目において症状の悪化がみられた。また、被災しても避難所に行かなかった群においてもうつ、不安症状悪化がみられた。

結論
:地震、津波等の災害は、特に高齢者に精神的なダメージを与え、特に避難所生活といった環境変化は、認知機能や行動、心理的症状を増悪させた。

考察と今後期待できる成果:今回の震災の死亡者、傷病者の多くは、災害弱者である子供と高齢者であった。アジア大陸の縁に沿って位置し震災列島である我が国では、今後首都直下、東海~南海にかけて大規模地震が発生する可能性が指摘されていることから、高齢の災害弱者への医療体制をどう構築するかは大きな課題である。震災後の環境の変化が著しいほど(状況が悪化するほど)、

   
認知症状の増悪がみられた。本結果は、災害時精神医療における高齢者の精神科医療対策、特に災害後の環境変化がもたらす高齢者の認知機能、心理行動的症状に関する支援を行っていく上でも重要な基礎データになると考えられる。平成24年度から厚生労働省「認知症対策総合研究事業」として東日本大震災被災高齢者における 認知機能と日常生活動作の前向きコホート研究 -仮設住宅に住む高齢者訪問調査-を進め、宮城県気仙沼地方の仮設住宅に住む高齢被災者の認知機能と日常生活動作の長期的な予後観察研究を計画している。

<用語解説>
MMSE (Mini-Mental State Examination)
見当識、記銘、注意、計算、視空間構成、言語の異なる領域を評価する認知機能検査である。認知症をスクーリングする検査として、カットオフポイントが23/24に設定されている。

NPI-Q(Neuropsychiatric Inventory-Questionnaire)
認知症に伴う心理、行動異常を質問形式で評価する方法である。妄想、幻覚、攻撃性、うつ、不安、多幸感、無関心、脱抑制、不安定、運動障害、夜間行動、食事に関して評価。点数が高くなるほど心理、行動異常ありと評価される。

<参考文献>
1) Furukawa K. Arai H. Earthquake in Japan. Lancet 2011;377:1652
2) Furukawa K, Ootsuki M, Kodama M, Arai H. Exacerbation of dementia after the earthquake and tsunami in Japan. J Neurol. 2011, Nov 30
3) Suzuki M, Uwano C, Ohrui T. Ebihara T, Yamasaki M, Asamura T, Tomita N, Kosaka Y, Furukawa K, Arai H. Shelter acquired pneumonia after a catastrophic earthquake in Japan. J. Am. Geriatr. Soc. 59:1968-1969, 2011


 表


 図
2012年6月8日 掲載

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